東京弁護士会

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の改正に関する意見書

2005(平成17)年11月7日
東京弁護士会
会 長 柳瀬 康治
現在、厚生労働省労働政策審議会均等分科会(以下、「雇用均等分科会」という。)において、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下、「均等法」という。)の2006年度の改正に向けて審議が行われている。当会は、今回の改正について、2005年3月23日、意見書を提出したが、その後、雇用均等分科会は審議状況について中間的取りまとめを行い、現在、最終意見に向けて集中的に審議を行っているところである。当会は、現在もなお上記意見書の意見を維持するものであるが、その後の雇用均等分科会における審議状況を踏まえ、特に強調したい項目に絞って、再度、意見を述べる。

1 均等法の目的・理念について

(1)目的・理念に「仕事と生活の調和」を規定すべきである。
(2)雇用均等分科会における審議の中では、「仕事と生活の調和」という理念に全員が賛成しているが、均等法に規定することには、次の理由で反対する意見がある。
1.働き方の多様化が進展している中で様々な働き方が認められるべきであり、本来の性差別の問題以外の要素を入れることに反対。
2.「仕事と生活の調和」は重要だが、これは労働関係法全体を通じて実現されるもの。
3.均等法には「仕事と生活の調和」に関する具体的措置規定がなく、仮に規定しようとすれば、法律の内容を大幅に変更することになる。
4.「仕事と生活の調和」の概念はあいまいなので実効につながるか疑問。
(3)これらの意見に対し、当会は、以下のとおり反論する。
1.について
性差別は、仕事優先の男性と生活を担う女性の性別による役割分業によって生じ、維持されている。したがって、男女がともに「仕事と生活の調和」を図ることができるようにすることは性差別を是正するための基本的条件である。
均等法制定および改正によって、一部の少数の女性が男性と同様に取り扱われるようになったとはいえ、大多数の女性の処遇は改善されず、かえってコース別雇用管理による女性差別拡大、パート、契約社員など低賃金で不安定な非正規雇用の女性の増大により、全体としての男女間格差は拡大している。これは、均等法が「長時間残業・いつでも転勤」を当然とし、過労死するほど働く男性を基準として、それが可能な女性のみを引上げる法律になっているからであり、これでは大多数の女性の差別は是正されない。「働き方の多様化」で、仕事を最優先にし、生活を犠牲にしても働きたい女性は、残業手当や転勤手当などで報われる必要はあるが、このように働く女性だけが平等になれるという法律では性差別を是正することは不可能である。
2.について
労働関係法全体に「仕事と生活の調和」が明記されることは望ましいが、現在育児と介護が必要な労働者の「職業生活と家庭生活両立」のための育児介護休業法と「次世代育成支援対策推進法」があるのみであり、これらが適用される労働者はきわめて限定されている。これらの法律が適用されない労働者にも「仕事と生活の調和」が必要である。男女共同参画社会基本法6条の規定は参考になるが、雇用における平等についてこれを直接の根拠とするのは困難である。
3.について
目的の中に「仕事と生活の調和を図る措置を推進することを目的とする」と規定すれば、その具体的措置を規定する必要が出てくるが、例えば、目的に「・・・仕事と生活の調和を図りつつ男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」を加えれば、法律を大幅に変更する必要はない。
さらに理念としてこれを明記することで、法律を大幅に変更しなくても、多くの法的効果をもつことになる。すなわち、均等法は、生活を犠牲にして働く男性の基準による平等ではなく、「仕事と生活の調和」を前提にした平等を理念とすることによって、不合理な性差別を是正する法律になる。
4.について
「仕事と生活の調和」の概念はあいまいというが、いまや「ワークライフバランス」は、労働におけるキーワードとして国内外で重視されるようになっている。企業の中でもその実践を行っているグループもある。これを目的・理念に規定することによって、各規定の解釈基準となり、現行法第4条の基本方針にも盛り込まれ、現在あるポジティブ・アクションの内容やコース別雇用の通達にも法的根拠を与えることになる。

2 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止について

(1)妊娠・出産したこと、あるいは産前産後休業の権利を行使したことのほか、妊娠・出産に起因する能率低下や不就労等の状態を理由とする不利益取扱いを禁止すべきである。
(2)雇用均等分科会の審議においては、妊娠・出産したこと自体や産前産後休業の権利行使自体を理由とする不利益取扱いは禁止する方向で議論が進められているが、妊娠・出産に起因する能率低下や不就労等に対する不利益取扱いについては公正性の観点から慎重に議論すべきとの意見が出されている。
(3)しかし、妊娠・出産は女性特有の問題であるから、妊娠・出産に起因する能率低下や不就労を、一般の疾病等の場合より不利益に取り扱うことは、まさに女性であることを理由とする差別にあたり、公平性に欠けるというべきである。

3 間接差別の禁止について

(1)間接差別については、「性を理由としない規定、基準または慣行等にもとづく事業主の取扱いであっても、その適用の結果、一方の性の労働者に対して、他の性の労働者と比較して、不利益を与える場合には、性を理由とした不利益取扱いとみなす。但し、事業主が、当該規定、基準または慣行等が、対象となる職務の目的と合致し、その目的達成手段として適切かつ必要であり、一方の性に生ずる不利益の程度が、職務上の必要性と均衡を保つことを証明した場合には、この限りではない。」というように、間接差別の禁止を均等法上明記すべきである。
その理由は、直接女性であることを理由として差別することはほとんどなくなったにもかかわらず、男女賃金格差などの差別は解消していないのは、かかる間接的な差別が抜け道になっているからである。
(2)この点、現在の雇用均等分科会の審議においては、間接差別の定義についてはおおむね(1)に記載した内容であることは確認されている。その上で、かかる定義だけでは予見可能性を高める必要があるとの理由から、一部の委員から、例外的に間接差別にあたらない例外事項をもうけるポジティブ・リスト方式、または、間接差別にあたる場合を制限列挙するネガティブ・リスト方式の採用が提案され、検討されている。
(3)しかし、間接差別とは、もともと法の抜け道を探して行われるものであるから、状況・時期に応じ、さまざまな形で行われることがその本質から当然想定されるので、定義は(1)に述べた程度の要件で定めることが必要かつ十分である。予見可能性については、法律上でなく、裁判上問題となった事例などを指針で例示をすれば足りる。
現在検討されているポジティブ・リスト方式は、リストに挙げられたものは間接差別ではないと法が認めることになり、ネガティブ・リスト方式では、リストに挙げられたもの以外は間接差別ではないと法が認めることになり、いずれも間接差別の範囲を限定し、法的に差別を認める害をもたらすものであり、差別撤廃につき、現行法よりマイナスとなり、決して認めることはできない。

4 差別禁止の内容等について

(1)差別禁止の内容として、「労働者の配置、昇進及び教育訓練」のみでなく、「職務の与え方」を含む「その他の労働条件」を規定すべきである。
(2)雇用均等分科会の中間的取りまとめでは、「仕事の与え方は、個人の能力等により異なるものであり、男女間の問題ではない」とされている。
(3)しかし、現実の「仕事の与え方」の背景を考えると、そこには女性差別意識が歴然と見え隠れしている。
すなわち、現行法下での指針では、個々の業務の遂行を命ずる業務命令は禁止されている差別たる「配置」における差別には含まれないとされているが、これでは、当初から女性には「お茶くみ」の仕事のみを与えても差別に当たらないことになる。しかし、最初から能力とは無関係に女性だから「お茶くみ」という仕事の与え方をしている場合が現実であり、こういうことが行われないようにするための法律が均等法であったはずである。

5 ポジティブ・アクションの効果的推進策について

(1)差別是正のために積極的是正措置(ポジティブ・アクション)を一定の範囲で義務づけるべきである。
(2)雇用均等分科会の審議においては、「一律に義務化すべきではなく、まずは事業主の自主的取り組みを促進するべきであり、行政は一層の周知を行うことが必要である。」との慎重意見がある。
(3)積極的な是正特別措置(ポジティブ・アクション)に関して、国は事業主に対し自主的な取り組みを奨励し、それを援助する立場をとっている。
しかし厚生労働省発表の「平成15年度女性雇用管理基本調査」によればポジティブ・アクションの取り組みを実施している企業は、29.5%にとどまっており、しかもその内容も不十分である。他方取り組む予定がない企業は、28.7%にものぼっている。従って、企業の自主的な取り組みの促進を図るだけでは不十分である。事業主に対して、積極的な是正措置(ポジティブ・アクション)を義務化し、その計画の策定と実行を義務付ける規定にすべきである。 さらに対象とする事業主は、中小企業が多いわが国の現状に照らせば、少なくとも30人を超える労働者を常時雇用する事業主には、計画の策定と実行を義務化すべきであり、30人以下の場合でも努力義務とすべきである。

6 セクシュアル・ハラスメント対策について

(1)性的な言動に、性的役割分担意識に基づく言動も含まれることを明記すべきである。
女性だけでなく対象を男女労働者とすべきである。
職場におけるセクシュアル・ハラスメントを禁止する規定を設け、事業主に防止義務・さらに問題が発生した場合に迅速適正な対処を行う義務を明記すべきである。
セクシュアル・ハラスメントに関する相談や苦情・申立てなどを理由とした不利益取扱いを禁止すべきである。
(2)雇用均等分科会の審議においては、効果的にセクシュアル・ハラスメント対策を講じていくための方策について検討がなされているが、以下のような慎重意見がある。
1.会社がどこまで関われるか困難な場合も多く現行指針のPRに努めることが重要である。
2.事前の予防措置と事後の対応措置は明確さが異なるため区別して議論すべきである。
3.セクシュアル・ハラスメントにジェンダー・ハラスメントを含めると、本来のセクシュアル・ハラスメント自体が不明確になるので反対である。
(3)これらの意見に対し、当会は、以下のとおり反論する。
1.及び2.について
現行法21条1項で、セクシュアル・ハラスメントに関して事業主の配慮義務が定められたが、施行後6年を経過した現在も未だセクシュアル・ハラスメントに対する事業主のみならず労働者の認識や理解が十分とはいえない現状である。被害者からの相談やセクシュアル・ハラスメントの裁判は増加している。
セクシュアル・ハラスメントは重大な人権侵害であり、その被害も深刻なものであることを十分に認識させるために、事業主だけでなく全ての者に対して何人もこれを行ってはならないと明文化すべきである。また女性のみならず男性も対象とすべきである。
会社がどこまで関われるか困難な場合も多いことを理由に義務化に消極的な意見や、事前の予防措置と事後の対応措置について明確さが異なる事を理由に事前と事後を区別すべきとする意見があるが、事後の対応措置が確立されていることが事前防止にもつながるものであって、両者は一体として事業主の義務とすべきである。また早期に事後の対応措置を適切に行うことは、被害の拡大を防止しより複雑化する以前に解決を図ることが可能になるのであって、事前予防と事後対応を分け、事後を配慮義務にとどまるとすべきではない。
3.について
セクシュアル・ハラスメントの背景には、伝統的な性別役割分担意識が存在している。人事院規則10-10と同様に、性的役割分担意識に基づいて行われる言動も追加する必要がある。セクシュアル・ハラスメントの定義にジェンダー・ハラスメントを含めると本来のセクシュアル・ハラスメント自体が不明確になるという反対意見があるが、この点は、定義や指針によって明確にすることによって混乱を回避することが可能である。むしろ現在は均等法と人事院規則10-10に差異があり、混乱を招くおそれがあるのであって、人事院規則と同様に性別役割分担意識に基づく言動を追加し、内容の統一を図るべきである。
以上
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