東京弁護士会

金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案に対する意見書

2007年(平成19年)6月6日
東京弁護士会
会長 下河邉 和彦

第1 はじめに

 平成18年6月7日に「証券取引法等の一部を改正する法律」および「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立した。この2本の法律は、従来の証券取引法を改正して名称を「金融商品取引法」と改め、関連法も含めて幅広い金融商品についての包括的・横断的な規制を行うものであり、投資家保護のために販売・勧誘ルールを定めるなど極めて重要な内容となっている。
上記により成立した金融商品取引法(以下「法」)は、その条文中において、多くの事項を政令や内閣府令に委ねているが、今般、金融庁より金融商品取引法制に関する政令案(以下「改正政令案」)・内閣府令案が示された。この改正政令案・内閣府令案の内容は膨大で多岐に亘っているが、当会はそのうち、特に投資家保護の見地から問題が大きい下記2点について、以下のとおり修正すべきとする意見を述べるものである(なお、内閣府令案は9本あるが本意見書に関係するのは「金融商品取引業等に関する内閣府令案」であり、以下「改正金商業府令案」という)。

第2 意見の趣旨

1 改正政令案16条の4は、法38条3号に定める不招請勧誘禁止の対象となる「金融商品取引契約」を店頭金融先物取引に限定しているが、範囲を拡大し、少なくとも、店頭金融先物取引に限定して取引所金融先物取引を除外している点については、両取引の危険性は同等であるから、現行金融先物取引法(76条4号)と同様に金融先物取引一般を対象とするよう改めるべきである。

2 (1) 改正金商業府令案126条は、法39条3項ただし書に定める事故確認を要しない場合を定めているが、5号においては、弁護士会が設置する仲裁センター等の紛争解決機関による「あっせんによる和解」だけでなく、同機関においてなされる「仲裁判断」を加えるべきであり、7号に定める弁護士が顧客を代理して行う和解については和解金額140万円という制限を撤廃すべきである。

(2) 金融商品取引法とともに改正された商品取引所法の214条の2第3項ただし書に定める事故確認を要しない場合に関して主務省令が定められる場合においても、上記(1)で示したものと同様の内容とされるべきである。

第3 意見の理由

1 「不招請勧誘」禁止の対象取引について(=意見の趣旨1)

(1) 問題の所在
不招請勧誘の禁止とは、勧誘を希望していない者に対して電話・訪問による投資勧誘を禁止する制度である。投資被害の多くがこの不招請勧誘をきっかけとして、適合性原則に反する消費者が業者の食い物にされるという実態があった。このような実情から見れば、金融商品取引の勧誘に広く一般的に適用される適合性原則に照らして、元本欠損の危険性が高い金融商品については、全て不招請勧誘が禁止されるべきである。
この点、投機取引に関する勧誘態様については、参議院における金融商品取引法案の審議に際しても、不招請勧誘という勧誘方法自体に対する問題点が提起され、その審議の結果は、同法案を可決するに際してされた同院の附帯決議にも表れているところである。
今般、法38条3号が業者に対する行為規制として不招請勧誘を禁止した点は評価できるものであるが、同号は対象を政令で定めた取引に限定しており、政令指定の範囲が狭ければその実効性は損なわれることとなる。従って、上記の必要性からすれば、政令においては広く「元本欠損のおそれのある取引」が本来指定されるべきものである。

(2) 広く金融先物取引全般が指定されるべき点について
ところで、今般、公表された改正政令案16条の4は、不招請勧誘禁止の対象となる「金融商品取引契約」を店頭金融先物取引のみに限定しているが、これは現行金融先物取引法76条4号(金融商品取引法が施行されると同時に廃止)が金融先物取引全般について不招請勧誘を禁止している点に比べれば、禁止の対象を狭めようとするものであり、規制としては後退することとなる。
本来、上記(1)の法の趣旨からすれば金融商品取引法の施行によって不招請勧誘の対象範囲は広がりこそすれ狭まることはないはずであるが、改正政令案はこれに逆行するものであり、到底容認できない。仮に上記(1)のような「元本欠損のおそれのある取引」について政令指定が直ちに行われないとすれば、少なくとも取引所取引を含む金融先物取引全般が政令指定されるべきである。

(3) 金融先物取引法によって不招請勧誘が禁止された経緯

金融先物取引法は平成16年12月に改正され(施行は平成17年7月)、金融先物取引一般について不招請勧誘が禁止された(同法76条4号)。
これは、いわゆる「外国為替証拠金取引」という極めてリスクの高い取引が、直接的な法規制がないことを背景に不招請勧誘によって拡大し、強引で欺瞞的な勧誘行為によって適合性を欠く多くの消費者が極めて深刻な投資被害を受けたことの対策として法制化されたものである。ここでは「金融先物取引」という一般消費者にとっては極めてリスクが高く、投資対象として不適切であることが重視され、取引所取引と店頭取引の区別無く、金融先物取引一般について一律に不招請勧誘が禁止されたものである。
現行金融先物取引法が平成17年7月に施行されてから、それまで不招請勧誘に依存して顧客を獲得し資金を収奪してきた業者が軒並み倒産し、外国為替証拠金取引の被害は激減している。これは同取引のような危険な取引が如何に不招請勧誘によって拡大し、深刻な被害を蔓延させるかを雄弁に物語っている。
上記の立法事実と、実際に立法がなされてからの被害の激減を鑑みれば、同法改正による不招請勧誘禁止の方向はまさに正しかったのであり、これを後退させるべき理由は微塵もない。よって、現行金融商品取引法の基準が最低限維持されなければならないことは現在においても全く変わりがないのであって、このことがまず確認されなければならない。

(4) 「取引所金融先物取引」を除外しようとする背景とその問題点
ア 上記の経緯で金融先物取引法が改正され、その後の立法事実に変化が無いにも拘わらず、改正政令案16条の4は不招請勧誘の対象から「取引所金融先物取引」を外し、「店頭金融先物取引」に限定しようとしている。これは具体的には「取引所金融先物取引」である「くりっく365」という名称の外国為替証拠金取引(以下「くりっく365」)について不招請の電話・訪問勧誘をすることを「解禁」しようとするものである。
このような方向性は、株式会社東京金融先物取引所が、主に「証拠金保全の十分性」「価格の透明性・公正性」「買いレートと売りレートの差、ポジション維持コスト(スワップポイント)の差、手数料の差」を挙げ、取引所金融先物取引が店頭金融先物取引よりも顧客にとって「有利」な取引であるとして、より広く一般に周知させることが望ましい旨の意見を述べたことを受けてのことであると思われる。
しかしながら、このような方向性は是認できない。
イ そもそも金融先物取引は、取引所取引であろうと店頭取引であろうと、自ら情報を収集、取捨・選択、分析し、判断し、決断する積極的な意思と(客観的)能力とを備えた者のみによって行われるべきものである。
従って、本来自ら情報を得て業者の店頭に赴き、あるいはインターネットなどで積極的に情報を取得して取引を行おうとする意思がある者のみが取引に参加すべきである。金融先物取引について知識も意欲も全く無い者を業者が積極的に訪問して取引を勧誘した結果、被勧誘者が取引を行うことになれば、不測の損害を被らせることになることが必然であり、そのことはこれまでの被害実態が証明している。
すなわち、自ら進んで情報を収集して取引に入ろうとしていないものに対して「不招請勧誘」を行い、取引所取引の有利性を周知させる意味など全く無いのである。
ウ そして、現在、金融先物取引は、インターネットを介して行う取引が圧倒的多数であり、かつ、迅速な情報収集にはインターネットの利用が不可欠であると言わざるを得ないが、このように、インターネットを使いこなすことができると言うことは、この種の取引をするに足りる最低限度の能力であるというべきである。現在金融先物取引を行っている投資家は、自らインターネットを用いて取引所取引及び各業者が行う店頭取引を比較し、検討した上で取引相手を決定しているのであり、不招請勧誘の電話・訪問勧誘がなされなくても、取引所取引が真に有利な取引であると判断され、支持を集めることができれば、自ずと取引所取引が活発化することになるものと考えられる。
現在、取引所取引のみが、税制の優遇措置を受けているにもかかわらず一般投資家の支持を受け得ていないのは、その商品の内容において店頭取引との競争に敗れているからである。これを、不招請勧誘によって取引の拡大を指向するというのは、結局、一般投資家の選択を無視して、そもそも金融先物取引に積極的な関心を有していない者をハイリスクな取引に誘い込むことを指向するものであるというほかはない。
エ また、仮に「くりっく365」について不招請勧誘が「解禁」されたときには、同取引の取扱業者である「参加者」によって不招請勧誘がなされることになるところ、現在の参加者の多くは、商品先物取引の不招請勧誘によって多くの深刻な被害を生じさせてきた商品取引員ないしその関連会社であるから、これら業者に不招請勧誘によって投機取引の勧誘がなされるときには、新たな被害が増加することが強く懸念される。
いわゆる「外国為替証拠金取引」は、すでに「くりっく365」上場以前から上場され、ほとんど取引が行われてこなかった金融先物取引である通貨先物取引から金利差精算部分を「外付け」したものであるが、このような取引が不招請勧誘によって急激に広がったのは、「高い利息が付く」という甘言を用いることにより、投機的取引に積極的な参加の意思を有さず、知識・経験・能力が乏しい者に対して勧誘することが容易であったからである。かつて、商品取引員は「外国為替証拠金取引」を「金利が高い」と言って勧誘し、その後、商品取引に誘導することがしばしば見られた。取引所金融先物取引を不招請勧誘の禁止から除外すれば、同取引の勧誘に端を発し、投機的取引を好まない者がより一層多く投機的取引に引き込まれる可能性も高い。取引所取引においては参加者の手数料が低額に抑えられているというのであれば、なおさらである。
オ 更に、現在は、店頭金融先物取引業者において証拠金の信託保全を行っている例が圧倒的多数を占めており、レート、スワップポイント、手数料についても、店頭金融先物取引業者が3PIPS(最小価格変動単位)ないし5PIPSのレート差及びスワップレートの差によってのみ利益を得るものが一般投資家の支持を集めており、注文の成立も比較的スムーズかつ公正になされているものが一般投資家の支持を集めている状況にあるが、一方、「くりっく365」では、円クロス取引しか扱われていないこと、建てたポジションごとに決済することができないこと、レバレッジが限定されていること、などから、一般投資家の支持が得られていないものと思われる。
株式会社金融先物取引所は、取引所取引の優位性を指摘するが、現に一般投資家に支持されていない以上、取引所の独自の見解であるというほかはない。
 カ 上記(3)に記載したとおり、改正金融先物取引法は不招請勧誘を全面的に禁止したのであるが、これは金融審議会金融分科会第一部会において、外国為替証拠金取引の高いレバレッジリスクを主な理由として、店頭取引についても、資本金、自己資本比率、分別管理についての規制を設け、金融先物取引をレバレッジリスク以外のリスクを消失ないし著しく減少せしめる手当をした「安全な取引」にした上で、なお、全ての金融先物取引について不招請勧誘を禁止したものである。
取引所取引に比して店頭取引が「危険」であるというのであれば、その「危険性」を除去するべきなのであって、取引所取引が「安全」であるとして不招請勧誘禁止の対象から除外する理由とはなりえないのは明らかである。
キ なお、不招請勧誘が禁止されれば適合性を欠く消費者が強引に市場に参加させられるような事態は激減し、公正な市場の形成にも資するというべきである。
(5) まとめ
以上のとおりであるから、不招請勧誘の禁止の対象としては本来「元本欠損のおそれのある取引」が政令指定されるべきであるが、仮にそれが直ちになされないとしても、少なくとも、取引所金融先物取引を不招請勧誘の禁止の対象から除外することは、明らかに現行金融先物取引法の趣旨に反し、「貯蓄から投資へ」という方向性ですら過渡期にある現在において、いわば「貯蓄から投機へ」という異常な事態を生起させるものであるというほかはなく、国民経済の健全な成長・発展を害するものであると言わなければならない。
不招請勧誘の禁止によって取引が一定程度適切に勧誘され、紛議が急速に減少したにもかかわらず、不招請勧誘の禁止対象から解放すれば、かつて社会問題にまで発展した外国為替証拠金取引問題の再燃を招来するおそれがある。
よって、意見の趣旨1記載のとおりの意見を述べる。

2 損失補填禁止の適用除外について(=意見の趣旨2)

 (1) 問題の所在
法39条は、金融商品取引業者等に対して損失補填の禁止を定めるが、同条3項においてその補填にかかる損失が「事故」による場合を例外とし、事故に起因するものであることについて、予め内閣総理大臣の確認を受けている場合かその他内閣府令で定めた場合に限るとしている。
顧客が金融商品取引業者に対して、その不法行為や債務不履行によるトラブルを原因として損害賠償を請求する場合、業者側が、本来理由にならない「損失補填禁止」を口実に示談解決を拒むことが懸念される。その結果、事実上訴訟外における示談解決が極めて困難となって、被害救済に大きな支障となる。この点は、証券取引法において損失補填禁止が規定された後、示談解決がほぼ不可能となり、業者の違法な勧誘や取引によって損害を被っても、結局、泣き寝入りをせざるを得ない事態を招いていることで実証済みである。
従って、事故確認についての適用除外の範囲を拡げて、損失補填ではなく損害賠償にあたる場合については被害者の救済が行われなければならない。
(2) 「仲裁判断」について
上記(1)からすれば、改正金商業府令案126条1項5号が「弁護士法33条第1項に規定する会則又は当該会則の規定により定められた規則に規定する機関のあっせんによる和解が成立している場合」を挙げたことは、弁護士会が仲裁センターや紛争解決センター等の名称で実施しているADR機関で裁判外の和解が成立した場合を適用除外として挙げたものであり、支持されるべきである。
但し、弁護士会のADR機関ではあっせんによる和解だけではなく、「仲裁判断」も紛争解決の手法として採用しているものが多く、これは確定判決と同一の効力を有し、「裁判所の確定判決を得ている場合」等と同様の効力を有するものであるから適用除外の一事由に加えるべきである。
(3) 弁護士が顧客を代理して行う和解について
更に、改正金商業府令案126条1項7号が、弁護士が顧客を代理して行う和解をも適用除外としたのは、従来、弁護士同士が裁判外の示談交渉によって個々の事件によって適正な解決を図ってきた実態からすれば、極めて妥当な規定であって支持されるべきである。
但し、同号はその要件として「当該和解の成立により金融商品取引業者等が顧客に対して支払をすることとなる額が百四十万円を超えないこと。」という制限を課しているが、これは不当である。
弁護士は、弁護士法1条(弁護士の使命)において定められているとおり、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」者であり、その使命に基き、「誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」とされている。そして弁護士は法律問題について高度の専門性を有し、かつ、弁護士職務基本規程によって信義誠実義務を負い、また非違行為があれば懲戒処分を受けるという極めて重い責任を負う立場にある。そのような弁護士が双方当事者の代理人として締結した和解は、当該紛争解決において公正妥当な内容であることが通常であると言える。従って、その和解に金140万円という金額の上限を設ける合理的な理由はない。
また、現実にも弁護士が扱う投資被害事件のほとんどは和解金140万円を越える規模であり、上記のような上限を設ければ同号に該当する事案はほとんどなくなり、規定する意味はなくなる。
従って、和解金額の上限の要件は撤廃すべきである。
(4) 商品取引所法改正に伴う主務省令改正について
ところで、金融商品取引法改正に伴い、同法の対象に入らずに別個の法律で規制される金融商品についても横並びで業者に規制がなされることになったが、商品取引所法においても、損失補填の禁止の条項が新たに設けられることとなった(同法214条の2)。そして同条項は、事故確認の適用除外の場合を主務省令に委任している。
従来、商品先物取引においては、迷惑勧誘、断定的判断の提供や虚偽説明などによる欺瞞的な勧誘や適合性違反、説明義務違反による契約締結、手数料稼ぎの特定売買など、業者と顧客との間のトラブルが絶えず、業者の損害賠償責任が常に問題となっており、現在でも深刻な被害事例が多発している状況にある。一方、従来から損失補填禁止条項のあった証券取引と異なり、商品先物取引では顧客との間での損失補填の問題はほとんど見られなかった。このような被害実態であるにも拘わらず、「規制の横断化」を形式的に推し進めたために、商品先物取引についても損失補填の禁止が明文化されてしまったのである。
この損失補填禁止の範囲が広いと、従来、顧客に対する損害賠償責任を認めて訴訟外の和解に応じてきた業者が、損失補填禁止を口実として容易に和解に応じず、結局、訴訟外の示談ができず被害救済が困難になるという事態が容易に想像される。業者の損害賠償責任は「損失補填」とは全く異なるものであり、顧客の被った損害は顧客に適正迅速に賠償されなければならないのであって、その賠償が妨げられることがあってはならない。
従って、今後近いうちに商品取引所法についても主務省令案が示され、その内容は金融商品取引法の内閣府令とほぼ同様と予想されるが、同主務省令についてもできるだけ適用除外が広く規定されるべきであり、意見の趣旨2(1)と同様の内容で弁護士会の紛争解決機関による「仲裁判断」を含め、更に弁護士が顧客の代理として行う和解について金額の制限は撤廃すべきである。

以上
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