東京弁護士会

外国人の調停委員採用拒否に対する意見書

最高裁判所
長官 島田 仁郎殿
東京地方裁判所
所長 池田 修殿

2008(平成20)年3月27日
東京弁護士会
会長 下河邉 和彦

第1 意見の趣旨

1. 東京地方裁判所は、2009(平成21)年4月選任見込みの東京簡易裁判所民事調停委員の候補者として当会が推薦した会員のうち、当会が東京地方裁判所からの国籍についての問合せに対して回答を拒否した会員について、最高裁判所へ調停委員候補者として任命上申をしないとの決定を撤回し、あらためて任命上申するよう求める。

2. 最高裁判所は、裁判所の民事・家事の調停委員について、日本国籍を有することを選任要件とする取扱いを速やかに変更し、日本国籍の有無にかかわらず、適任者を任命する扱いとするよう求める

第2 意見の理由

1 今回の任命上申拒否に至る事実関係

当会は、東京地方裁判所からの東京簡易裁判所民事調停委員の推薦依頼に対し、2007(平成19)年10月に大韓民国籍の会員1人(以下「当該推薦会員」という。)を含む候補者を推薦したところ、同年12月に東京地方裁判所から当会に対し、当該推薦会員の国籍について照会があった。これに対し、当会は同年同月28日付書面で「調停委員の選考に必要な情報とは認められないので、回答の限りではありません。」と回答した。

2008(平成20)年2月に入り、あらためて東京地方裁判所より「日本国籍が調停委員の選任要件であると考えるので回答して欲しい」との要請があったが、当会は再度回答を拒否した。そうしたところ、同年2月29日に至り、東京地方裁判所より当該推薦会員について「国籍について弁護士会からの回答がなく、本人からも回答が得られなかったので、調停委員候補者として最高裁判所に任命上申をしないことにした」との連絡があった。

すなわち、東京地方裁判所は、当該推薦会員について、日本国籍の確認ができないことを理由に、裁判所の調停委員になることを拒否したものである。

2 外国籍弁護士の調停委員等への就任拒否についてのこれまでの経緯

当会は、2006(平成18)年3月31日、当会会員が日本国籍を有しないとの理由で司法委員就任を拒否されたことに関し、東京地方裁判所所長に対し「外国人の司法委員採用拒否に対する意見書」を提出し、かかる対応は「憲法に抵触するとともに、司法紛争のより良い解決、多民族・多文化共生社会の形成の観点からも不適切である」ことなどを指摘し、「以後、日本国籍を有さない者であっても、能力、適格性を有する者については積極的に司法委員に採用すること」などを求めてきた。

また、過去には、東京地方裁判所以外でも、仙台家庭裁判所及び神戸家庭裁判所において、それぞれ外国籍の会員の調停委員就任が拒否されており、仙台弁護士会及び兵庫県弁護士会が、当該裁判所及び最高裁判所に対してその取り扱いの見直しを求めてきた。

このような各弁護士会からの再三の要望にもかかわらず、今年度もまた、神戸家庭裁判所、仙台家庭裁判所、大阪家庭裁判所において同様の就任拒否が繰り返されており、さらに今回、東京地方裁判所においても同趣旨の判断がなされたものである。

このように、外国籍会員の調停委員や司法委員への就任拒否が繰り返されているというだけでなく、この間の各弁護士会からの要望に対し最高裁判所等からの返答が一切ないことからすると、今回の東京地方裁判所の対応は、最高裁判所の意向を受けてのものと考えざるを得ない。

3 所謂「公務員に関する当然の法理」の不当性

公務員に関しては、内閣法制局が1953(昭和28)年3月25日に示した所謂「公務員に関する当然の法理(法令の定めなくしても、公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには、当然に日本国籍を必要とする)」という見解があり、2005(平成17)年1月26日の最高裁判所大法廷判決も、地方公務員の管理職昇任についてこの法理を是認している。

そして、裁判所の調停委員についても、2004(平成16)年の日本弁護士連合会第47回人権擁護大会シンポジウム第1分科会基調報告書によると、最高裁判所の事務担当者に問い合わせたところ、「その職務内容や権限を総合的に考慮すれば、調停委員は、公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員にあたるから、調停委員には日本国籍を要する」という見解であったとのことである。今回の東京地方裁判所の任命上申拒否も、この最高裁判所の見解に基づくものと思われる。

しかしながら、法令に根拠のない「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」という抽象的基準だけで、当該公務員の具体的な職務内容を問題とすることなく日本国籍の有無で差別的取り扱いをすることは、国籍を理由とする不合理な差別であって、憲法14条に違反すると言わざるを得ない。その意味で、最高裁判所が自らこの抽象的基準を是認していることは極めて遺憾であり、弁護士会としては到底これを認めることはできない。

憲法の定める基本的人権は、前国家的な性格を有するものであり、憲法が国際協調主義に立脚していることや人権の国際化の傾向が顕著であることからすれば、権利の性質上適用可能な憲法の人権規定はすべて、外国籍の者にも保障される。従って、合理的理由がない限り、外国籍というだけで差別的扱いをすることが許されないのは、裁判所の調停委員の選任に関しても同様である。

4 日本国籍を調停委員の選任要件とすることの不合理性

まず、「民事調停委員及び家事調停委員規則」その他の関係法令において、民事調停委員及び家事調停委員について日本国籍を要求する条項は、存在しない。

そして、調停委員の役割は、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識をもとに、当事者双方の話合いの中で合意を斡旋して紛争の解決に当たるというものであり、当該地域の社会制度や文化に精通し高い人格識見のある者であれば、日本国籍の有無に関わらず、その役割を果たし得ることは明らかである。

また、調停委員の権限の観点から見ても、職務の性質上当事者の権利を制約することは想定されていないし、調停委員会の決議(意思決定)も調停制度による紛争解決を実効性の高いものとするための付随的な処分に過ぎない。従って、それによって具体的な「公権力の行使」や「国家意思形成への参画」に該当するものではなく、仮に「公務員に関しての当然の法理」を前提としても、外国籍の者の調停委員就任を認めないことは不合理である。

むしろ、簡易裁判所で扱われる紛争が国際化・多様化している今日、外国人も含めた多様な人材が調停委員に採用されることは、その健全な良識と感覚を司法に反映させることにより、紛争解決を容易にするものであり、多民族・多文化共生社会の形成の観点からも必要といえる。

特に、生涯日本で暮らすことを前提に日本社会の構成員となっている特別永住者については、その生活実態において日本国民と何ら変わるところがないのであるから、調停委員等の公務への就任についても、日本国籍者との間で異なる扱いをする合理的理由はない。

従って、東京地方裁判所が、「国籍が選任要件である」との理由で、東京弁護士会及び当該推薦会員に対しその国籍を照会し、これに回答しないことを理由に最高裁への任命上申を拒否することは、法令の根拠なくして法の下の平等(憲法14条)を侵害する行為にほかならない。

5 結語

今回、調停委員としての任命上申を拒否された当該推薦会員は、在日韓国人として永住資格を有し、司法修習を終え、弁護士としての経験を積み、調停委員としての能力、適格性を十分に有している者である。

また、最高裁判所に対しても、日本国籍を調停委員の選任要件とするとの取り扱いを速やかに変更し、外国籍の調停委員の任命を認める扱いとするよう、強く求める。

以上

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