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「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の改正に関する意見書

2005年3月23日

厚生労働省
大臣 尾 辻 秀 久 殿
厚生労働省労働政策審議会
座長 西 川 俊 作 殿

東京弁護士会
会長 岩 井 重 一

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の改正に関する意見書

はじめに

現在、厚生労働省労働政策審議会均等分科会において、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律」(以下、男女雇用機会均等法という)の2006年度の改正に向けて審議がなされている。同審議会においては、厚生労働省が設置した「男女雇用機会均等政策研究会」が2004年6月に提出した報告書をふまえ、主に(1)男女双方に対する差別の禁止、(2)妊娠・出産等を理由とする不利益扱いの禁止、(3)間接差別の禁止、(4)ポジティブ・アクションの推進方策をテーマに審議を進めている。
わが国においては、男女共同参画社会基本法の施行後数年を経過しているにもかかわらず、例えば、男性の賃金に対する女性の賃金の割合(パート等非正規労働者を除く)が、2003年でも66.8%にとどまっているなど、未ださまざまな形の男女差別が行われている。そのため、実質的な男女平等の実現に向けて機能する実効性ある男女雇用機会均等法にするには、上記4項目を含め、男女労働者の仕事と生活の調和をはかるための方策、実効ある救済機関の設置等有効な法整備を行うことが求められている。
当会は、従前から男女雇用機会均等法の制定及び改正にあたって意見書を提出してきたが、今回の改正にあたり、わが国の雇用の分野の男女差別の実情をふまえ意見を述べる。なお、提案の内容をできるだけ具体的に示すために改正を求める条項について、できるだけ「改正案」という形で取りまとめた。

第1 総則

1 男女双方に対する差別の禁止とそれに伴う法律名の変更
《意 見》
男女双方に対する性別を理由とする差別的取扱いを禁止する法律に改定し、その名称を「男女雇用平等法」とすべきである。
《理 由》
(ア)人は、その性を問わず平等に処遇されるべきであり、男女平等の観点から性別による差別は許されないものとして、男女双方に対する差別的取扱いを禁止する法律に改定すべきである。その名称も「男女雇用平等法」として、性差別禁止法にふさわしい名称に改定すべきである。性別による差別を受けないということは、男女ともに保障されなければならない基本的人権であるからである。
この点は、すでに日弁連が「『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保のための労働省関係法律の整備に関する法律案』に関する意見書」(1997年3月)の中で、述べているところである。諸外国の法制を見てもそのほとんどは「性差別禁止法」などとして男女双方に対する差別を禁止している。
(イ)現行男女雇用機会均等法について、1997年5月16日衆議院労働委員会及び同年6月10日参議院労働委員会では、「政府は、次の事項について適切な措置を講ずべきである。(1)男女双方に対する差別を禁止するいわゆる『性差別禁止法』の実現を目指すこと。・・・」とする付帯決議をあげていた。
(ウ)その後制定された「男女共同参画社会基本法」(1999年6月23日施行)では、男女共同参画社会の実現は、21世紀のわが国の社会を決定する最重要課題であると位置づけ、同法の目的を男女共同参画社会の形成と定め(第1条)、「男女共同参画社会の形成は、男女の個人としての尊厳が重んぜられること、男女が性別による差別的扱いを受けないこと、男女が個人として能力を発揮する機会が確保されることその他男女の人権が尊重されることを旨として、行われなければならない。」(第3条)としている。
(エ)上記の目的を実現するためには、雇用の分野での男女平等を実現するために、今日の女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする必要がある。
2 法の目的・基本的理念(現行法1条、2条関係)
《意 見》
法の目的・基本的理念に「仕事と生活との調和を図る」ということを明記すべきである。
また、「均等」という規定をすべて「平等」と改訂すべきである。
《理 由》
(ア)雇用における男女の平等を実現するためには男女を問わず仕事と生活の調和が図られることが不可欠である。男女を問わず、仕事と生活の両立は、21世紀の課題である。日本が批准したILO156号条約と165号勧告は、(1)家族的責任を有する男性労働者と女性労働者間の平等、(2)家族的な責任を有する労働者と家族的責任を有しない労働者との間の平等の実現、という2つの目的のために、(1)家族的責任を有する労働者の特別の必要に応じた措置、及び(2)一般的な労働者の条件を改善する措置を定めている。
日本の現状は、男性は家族的責任を担う時間を奪われるほどの長時間労働、他方家族的責任の大部分は相変わらず女性の肩にかかっているという状況にあり、仕事と生活を調和させ、男女ともに働き続けられる条件整備が急務である。そのため男女労働者双方に対する差別禁止法としての定めとともに上記のような基本理念の制定は不可欠である。
(イ)名称を「男女雇用平等法」と変更することとあわせて、条文上も男女平等の取扱いを明確にするために「均等」という規定をすべて「平等」と改訂する必要がある。
3 間接差別の禁止の明記(新設)
《意 見》
第2条の2に、間接差別の禁止を明記する規定を新設すべきである。
【改正案】
差別とは、直接的であると間接的であるとを問わず、事業主が労働者に対して適用する規定、基準又は慣行(以下「規定等」という。)が、他の性の労働者と比較して一方の性の労働者に不利益を与える場合をいう。但し、規定等が正当な目的によるものであり、かつ、その目的を実現する手段として適切かつ必要なものである場合はこの限りでない。
《理 由》
(ア)現在、わが国においては、直接女性であることを理由として差別することは違法であるという認識は定着し、あからさまに女性であることを理由とする差別は見当たらなくなっている。
しかしながら、パートタイム労働者を除く一般労働者の所定内給与額についてみると、女性は男性の66.8%にとどまっている(厚生労働省「平成15年版働く女性の実情」)。これは、外見上は中立的な規定、基準又は慣行の中に事実上女性に不利益をもたらすもの(いわゆる間接差別)があることに起因しており、男女間の賃金等における不合理な格差は、歴然として存在している。
(イ)具体的には、女性の大部分が非世帯主である実情のもとで、例えば、住宅資金の貸付を世帯主のみに支給する場合が考えられる。
また基幹的業務と定型的業務等の業務内容や転勤の有無によってコースが分けられ、昇進、賃金等の雇用管理がコース毎に異なっている企業が存在し、そのような企業においては、昇進、賃金等の処遇においてコースによって著しい格差が設けられていることが少なくない。しかしながら、多くの場合に「転勤の有無」がコースの区分けの基準の一つとされているため、事実上家庭責任の重い女性労働者は転勤に応じられず、昇進・賃金等で不利なコースを選ばざるを得ない結果となっている。
統計的にも、コース別人事制度を採用している企業の方がそうでない企業より男女賃金格差が大きく(2002年11月厚生労働省「男女間の賃金格差問題に関する研究会報告」)、賃金や昇進で不利なコース(いわゆる「一般職」)には女性が圧倒的に多い(2004年7月厚生労働省「コース別人事管理制度の実施状況と指導状況について」)ことが明らかとなっている。採用という雇用の入り口の段階で、女性は賃金や昇進での有利な処遇が得られるコースに採用されないという事態が解消されなければ、男女格差は是正されない。
さらに、パート労働者や派遣労働者等の非正規雇用労働者が女性労働者の過半数を占めているところ(厚生労働省「平成14年版働く女性の実情」)、かかる非正規雇用労働者の賃金は男性の正規雇用労働者より大きく下回るのが実態である。しかしながら、パート労働者は、正規労働者と類似又は同一の業務を行っている場合であっても、報酬額が、実際に行っている職務の内容に基づいて定められていない(すなわち、同一価値労働同一賃金の原則が守られていない)。すなわち雇用形態の違いによって不合理な格差となっている。
(ウ)この点、女性差別撤廃条約の実施状況に関する日本政府の第4回・第5回リポートに対する国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の審議においては、委員からコース別人事制度の一般職やパートタイム労働者に圧倒的に女性が多いことは間接差別になるのではないかという指摘が相次いだ。そして、委員会の最終コメントは、「国内法に差別の明確な定義が含まれていないことに懸念を表明する」「条約の第1条に沿った、直接及び間接差別を含む、女性に対する差別の定義が国内法に取り込まれることを勧告する」とした。
(エ)以上のとおり、女性労働者は、現実に、間接差別により大きな不利益を被っており、また、間接差別の禁止は日本が批准した国際法規(女性差別撤廃条約第1条)に明記されているのであるから、日本は間接差別を法律において明確に禁止すべきであり、また、その義務がある。
4 啓発活動(現行法3条関係)
《意 見》
国及び地方公共団体による啓発活動の目的として「男女労働者の仕事と生活の調和」を加えるべきである。
【改正案】
国及び地方公共団体は、男女労働者の仕事と生活の調和、雇用の分野における男女の平等機会及び待遇の確保等について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、男女労働者の仕事と生活の調和、雇用の分野における男女の平等な機会及び待遇の確保を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。
《理 由》
雇用における男女の平等を実現するためには男女を問わず仕事と生活の調和が図られることが不可欠であり、まさに法の目的・基本理念とすべきであるから、啓発活動の目的としても明記すべきである。
5 基本方針(現行法4条関係)
《意 見》
基本方針を定めるべき施策として、「男女労働者の仕事と生活の調和」に関する施策を加え、略称を「男女雇用平等対策基本方針」とすべきである。また、施策の基本方針に定める事項として、女性労働者のみならず「男性」労働者の職業生活の動向に関する事項を加え、考慮事項としても、女性労働者のみならず「男性」労働者の労働条件、意識及び就業実態を加えるべきである。
【改正案】
  1. 厚生労働大臣は、男女労働者の仕事と生活の調和、雇用における男女の平等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となるべき方針(以下「男女雇用平等対策基本方針」という。)を定めるものとする。
  2. 男女雇用平等対策基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
    (1) 男女労働者の職業生活の動向に関する事項
    (2) (省略)
    (3) 男女労働者の仕事と生活の調和を図るために講じようとする施策の基本となるべき事項(新設)
  3. 男女雇用平等対策基本方針は、男女労働者の労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならない。
(以下省略)
《理 由》
(ア)男女労働者の仕事と生活の調和は、法の目的・基本理念とすべきであり、これに関する施策の基本となるべき方針を定めることは不可欠である。
(イ)差別禁止の対象は男女双方であり、男女を問わず労働者の仕事と生活の調和が図られるべきである。

第2 各論

1 差別の禁止
(1)募集及び採用における差別的取扱いの禁止(現行法5条関係)
《意 見》
【改正案】
事業主は、労働者の募集及び採用について、労働者の性別により差別的取扱いをしてはならない。
《理 由》
雇用における男女平等を実現するため、差別禁止の対象を女性労働者に限定するのではなく、男女労働者双方とするのが妥当である。

(2)労働条件に関する差別の禁止(現行法6条関係)
《意 見》
「労働者の配置、昇進及び教育訓練」のみでなく、「職務の与え方」を含む「その他の労働条件」について、労働者の性別による差別的取扱いを禁止すべきである。
【改正案】
事業主は、労働者の配置、職務の与え方、昇進及び教育訓練その他の労働条件について、労働者の性別により差別的取扱いをしてはならない。
《理 由》
雇用における男女平等を実現するため、差別禁止の対象を女性労働者に限定するのではなく、男女労働者双方とするのが妥当である。また、個別的な職務の与え方等について性別による差別が行われている場合が多くみられるため、「職務の与え方」を含む「その他の労働条件」についての差別を禁止すべきである。

(3)福利厚生に関する差別的取扱いの禁止(現行法7条関係)
《意 見》
【改正案】
事業主は、住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であって厚生労働省令で定めるものについて、労働者の性別により差別的取扱いをしてはならない。
《理 由》
雇用における男女平等を実現するため、差別禁止の対象を女性労働者に限定するのではなく、男女労働者双方とするのが妥当である。

(4)定年・解雇に関する差別的取扱いの禁止(現行法8条関係)
《意 見》
【改正案】 事業主は、労働者の定年及び解雇について、性別により差別的取扱いをしてはならない。
《理 由》
雇用における男女平等を実現するため、差別禁止の対象を女性労働者に限定するのではなく、男女労働者双方とするのが妥当である。

(5)婚姻及び妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止(現行法8条関係)
《意 見》
【改正案】
  1. 事業主は、次の事項を退職理由として予定する定めをしてはならない。
    (1) 労働者が婚姻したこと。 (2) 女性労働者が妊娠し、又は出産したこと。
  2. 事業主は、次の事項を理由として、解雇その他の不利益取扱いをしてはならない。
    (1) 労働者が婚姻したこと。 (2) 女性労働者が妊娠し、出産したこと、あるいは妊娠・出産に起因する状態、又は労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項若しくは第二項の規定による休業をしたこと。
《理 由》
(ア)婚姻を退職理由として予定する定めは、男性についておかれるのであっても、婚姻の自由を不当に阻害するものである。妊娠・出産は女性労働者のみに生じる事由であるが、これを退職理由とすることは、妊娠・出産の自由を阻害する。
(イ)婚姻を理由として解雇等の不利益取り扱いがなされることは、労働者の婚姻の自由を不当に阻害する。妊娠・出産、妊娠出産に起因する状態は、女性労働者にのみ生じる事由であるが、婚姻・妊娠・出産・産休取得を、解雇以外の不利益取り扱いの理由とすることは、労働者の婚姻・出産の自由を不当に制限し、産休取得の権利を侵害するものである。
2 紛争の解決(現行法11条~14条関係)
《意 見》
(ア)現行法11条ないし14条において、「女性労働者」を「男女労働者」と改定すべきである。
(イ)また、以下の内容の行政救済機関を設置すべきである(新設)。
  1. 政府から独立した機関であること。
  2. 少なくとも都道府県単位で設置すること。
  3. 救済の対象は、男女雇用平等法違反の全ての行為とすること。
  4. 救済申立てを理由とする不利益取扱いを禁止すること。
  5. 事業主に、差別の合理的根拠を示す証拠及びその裏付け資料の提出義務を負担させること。
  6. 差別の合理的根拠を示す資料の提出がない場合、あるいは資料の提出があっても合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告できるようにすること。
  7. 事業主がこの勧告に従わない場合、行政救済機関は差別是正命令を発することができ、この命令に従わない場合には、刑罰を科すこと。
  8. 申し立てた労働者を緊急に救済することが必要な場合は、緊急命令を発することができること。
《理 由》
現行法11条ないし14条は、女性労働者が差別された場合の救済手段として、自主的解決を基調とする行政指導と調停制度を設けている。しかし、日本の現状では、自主的解決はあまり期待できず、また、行政指導についてみても、勧告が行われることは稀であり、十分機能しているとはいえない状況である。さらに、現行法では、行政指導に従わなかった場合の制裁措置が公表にとどまっており、これでは実効性ある行政指導は望めない。また、調停制度は、互譲を旨とする制度であり、当事者が応じなければ機能しない。
性別による差別は人権侵害であるが、これまで差別を受けた女性が救済を求めて長期間の裁判で争わざるをえなかったという実態を考えれば、差別からの救済を迅速に図るための行政機関、すなわち、是正命令を出せる実効性ある行政救済機関のの設置が強く望まれる。
3 積極的是正措置(ポジティブ・アクション)(現行法20条関係)
《意 見》
差別是正のための積極的是正措置(ポジディブ・アクション)を一定の範囲で義務づけるべきである。
【改正案】
  1. 雇用の分野における男女の平等の支障となっている事情を改善することを目的とする事業主の措置(ポジディブ・アクションという)は、第2条の2に規定する「差別」にはあたらない(新設)。
  2. 常時30人を超える労働者を雇用する事業主は、ポジディブ・アクションに関する以下の措置を講じなければならない。
    1. その雇用する男女労働者の採用、配置、昇進その他雇用に関する状況の分析
    2. 前号の分析に基づき、雇用の分野における男女の平等の確保の支障となっている事情を改善するに当たって必要となる措置に関する計画の作成
    3. 前号の計画で定める措置の実施
    4. 前三号の措置を実施するために必要な体制の整備
  3. 事業主は、2年ごとに、前項の計画及びその実施状況を都道府県労働局長に届出なければならない(新設)。
  4. 常時雇用する労働者の数が30人以下の事業主は、前項同様の措置を講ずるよう努めなければならない。
  5. 国は、事業主に対し、ポジディブ・アクションの計画及び実施につき、相談その他の援助をすることができる。
  6. 厚生労働大臣は、ポジディブ・アクションに関する指針を定めることができるものとする(新設)。
《理 由》
長年にわたって積み重ねられてきた女性差別を是正するためには、積極的な特別措置(ポジティブ・アクション)をとる必要がある。
しかしながら、現行法9条は、事業主がポジディブ・アクションをとることを「妨げない」という規定の仕方にとどまるものである。また、現行法20条において、各事業主が行うポジディブ・アクションについて、国による援助が行われる旨規定されているが、これは、事業主の"自主的"取組みを奨励し、援助する規定にとどまっている。
そこで、より進めて、まずは、各事業主にポジディブ・アクションを義務付け、計画の策定と計画実行とを義務付ける内容の規定にするべきである。当面は常時30人を超える労働者を雇用する事業主を対象とし、それ以下の場合は努力義務とする。その際、そもそも、事業主の措置(ポジディブ・アクション)が、第2条の2に定める「差別」と解されてはならないという点も明確にするべく、第1項に規定するものである。
4 セクシュアル・ハラスメント(現行法21条関係)
《意 見》
【改正案】
  1. 事業主は、職場において行われる性的な言動および性別役割分担意識に基づく言動(以下「性的な言動等」という。)に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動等により当該労働者の就業環境が害されること(以下、「セクシュアル・ハラスメント」という)のないよう適切な防止措置と適正な事後的対応措置をとらなければならない。
  2. 何人も、セクシュアル・ハラスメントを行ってはならない(新設)。
  3. 事業主は、労働者が前項の事項につき苦情あるいは申立てをしたことなどを理由として、解雇その他の不利益取扱いをしてはならない(新設)。
  4. 厚生労働大臣は、前項および前々項の規定に基づき事業主がなすべき事項についての指針(次項において「指針」という)を定めるものとする。
《理 由》
(ア)第1項に「性別役割分担意識に基づく言動」を追加すべきである。対象は女性労働者だけでなく、男女労働者とすべきである。また、事業主に対し、単なる配慮義務にとどまらず、適切な防止義務及び適正な事後の対応を義務付けるべきである。
(イ)セクシュアル・ハラスメントの禁止条項を設けるべきである。
(ウ)セクシュアル・ハラスメントの苦情・申立を理由とする不利益取扱いを禁止すべきである。
5 制裁措置(現行法26条)
《意 見》
【改正案】
  1. 厚生労働大臣は、事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表しなければならない。この場合において、厚生労働大臣は、勧告に従わなかった事業主に対する公共職業安定所での求人不受理・紹介停止など適切な措置をとるよう管轄機関に勧告することができる。
  2. 前項の勧告に従わなかった事業主は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する(新設)。
《理 由》
平成9年法律第92号により追加された26条では、公表のみに限られ、今日に至っている。日弁連が、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律案」に対する意見書(1984年6月)51頁以下、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働関係法律の整備に関する法律案」に関する意見書(1997年3月)18頁以下などで提案していた制裁(公表以外の制裁)については、未だに実現されていない。
現行法が定年や退職について禁止規定を設けているにもかかわらず、現実に結婚退職や若年退職の強要が依然として行われており、単なる禁止規定では不十分であることは明白である。罰則規定が設置されているからこそ、労基法に基づく労働基準監督官の命令が尊重されているのである。
禁止規定を単なる訓示規定に終わらせないために、刑事制裁の規定の設置が必須である。刑事罰は、労基法3条・4条違反の罰則規定(労基法119条1号)を参考にした。国際的な課題として要請されている男女雇用平等法の趣旨を実現するため、公共職業安定所での求人不受理・紹介停止および公共融資その他の取引の停止・制限なども行える公表以外の行政罰の規定新設を提案したい。

第3 指針

《意 見》
「募集及び採用並びに配置、昇進及び教育訓練について事業主が適切に対処するための指針」中、2項の「雇用管理区分ごとに」及び3項の「一つの雇用管理区分において」との文言を削除すべきである。
《理 由》
現在の雇用管理区分制度、いわゆるコース別雇用管理制度は、1985年の男女雇用機会均等法制定前後から、法5条及び6条の募集および採用ならびに配置、昇進および教育訓練における男女の均等な機会の確保に対する抜け道として作られた経緯がある。すなわち、性別役割分業論に基礎付けられた、女性は低賃金のまま、補助的な仕事しか担当させず、昇進させないという雇用と賃金の全般にわたる男女差別コースを温存させるため、別の名前をつけて作りかえられて創設されたことは否めない。一見性中立的にみえるが、実は一方の性に不利益な、間接差別にあたることは、第2、3で述べたとおりである。
このような問題点は、2000年6月の労働省の通達も指摘しているところである。
しかし、1998年に定められた法5条と6条のための指針においては、法5条について定めた2項本文では「雇用管理区分ごとに、次に掲げる措置を講ずること」とし、また、法6条について定めた3項各号本文では「一つの雇用管理区分において」としており、雇用管理区分内の男女差別は規制しているが、管理区分の設定自体が事実上一方の性を排除し、または不利に扱う場合であるにもかかわらず規制対象から排除している。
よって、かかる文言を削除すべきである。
以上