東京弁護士会

事務ガイドラインの一部改正についての意見(金融庁へのパブリックコメント)

金融庁監督局総務課金融会社室 御中


2005(平成17)年8月30日
東京弁護士会
会 長 柳瀬 康治

事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正についての意見


1 貸金業者の取引履歴開示義務の明確化(ガイドライン3-2-2関係)について

 貸金業者に取引履歴の開示義務があり、正当な理由に基づく開示請求を拒否した場合には行政処分の対象となり得ることを明確化する」との改正の趣旨には賛成であるが、「過払金の返還請求」が正当理由に含まれることを明記すべきである。

最高裁判所第三小法廷平成17年7月19日判決は、債務者が債務内容を正確に把握出来ない場合には、「弁済計画を立てることが困難になったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る」ことなどに鑑みて、取引履歴開示義務が存在するとの結論を導いており、債務者に取引履歴開示請求権を認める実質的な根拠の一つに過払金請求権の存否・金額の確認という利益があることが示されていること、また、弁護士による債務整理実務の上でも、過払金の存否・金額が、債務者の立ち直りのために最も適した債務整理の方針を決定するにあたって、きわめて重要な要素となっていることからすると、当然に、上記「正当理由」の中に過払金返還請求権の存否・額の確認が含まれると考えられる。
しかし、従前、貸金業者の中には過払金返還請求をするのであれば取引履歴を開示しないという業者も散見されたので、取引履歴開示請求権の趣旨を貸金業者に徹底させるために、「過払金の返還請求」が正当理由に含まれることを明記することが必要である。

2 取引履歴開示請求の際の本人確認手続きの明確化(ガイドライン3-2-8(1)関係)について

(1)顧客自身が開示請求をする場合の本人確認手続きについて、「本人確認法」に規定する方法を例示すべきではなく、「顧客等に過重な負担を課することのないよう留意すべきこと」を明記すべきである。

「本人確認法」は、例えば銀行がこれから口座を開設して預金取引を始める際に、テロ対策・マネーロンダリングや組織犯罪の防止等の観点から、素性の明らかでない者について厳格な本人確認手続を定めているものであり、既に貸金業者と金銭消費貸借契約を締結し取引をしている顧客に対する「取引履歴の開示」の場面においてまで、そのような厳格な本人確認手続は必要ない。
逆に、そのような厳格な本人確認手続を必要とすることは、貸金業者による取引履歴不開示の口実を与えるだけとなり、貸金業者に「信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務」を認めた上記最高裁判決の趣旨及び本ガイドラインの改正の趣旨に反することになる。
したがって、現在必要なのは、取引履歴の開示請求権は顧客等の権利であって、本人確認手続を取引履歴開示を回避するための口実として利用してはならないことを「明確化」することである。そこで、顧客等からの取引履歴開示請求に応じる場合の本人確認の手続については、「顧客等に過重な負担を課することのないよう留意すべきこと」を明記すべきである。

(2)顧客等の代理人である弁護士が開示の求めをする場合には、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知」(貸金業規制法21条1項6号参照、以下、「受任通知」という。)が送付されていれば(ファクシミリによる場合を含む)、本人であること及び本人との委任関係の確認として十分かつ適切であるとすべきである。

債務整理の実務においては、受任通知が、債務者の代理人であることの十分かつ適切な確認資料である、とされてきた。実際、多くの貸金業者は、個人情報保護法が施行された現在においても、弁護士が作成名義人である「受任通知書」の送付をもって代理権確認の方法とすることを、従前通り異議なく認めている。
弁護士名の「受任通知書」を信頼したために貸金業者が不正な開示請求に応じてしまったというトラブルが現に多発しているわけでもなく、万一、弁護士が、受任通知書で自らの氏名を明らかにした上で自ら不正な開示請求などを行ったりすれば、弁護士職務基本規程違反行為として懲戒処分を受けるという重大な不利益を受けることになるのである。あたかも弁護士と顧客等との委任関係の存在が疑われる状況が広く存在していることを前提とするかのように、厳格な手続を課するのは正当ではない。
仮に、ガイドラインが例示するように、顧客等が、代理人弁護士に対し、印鑑証明書・戸籍謄本・住民票の記載事項証明書等の原本を預けるか、または委任状に捺印する印鑑についての印鑑証明書を渡しておかなければならないとすれば、当然それらの申請費用と手間が必要になる。債務整理を必要とする多重債務者はそもそも経済的に困窮している状態にあり、それらの費用負担が履歴開示請求の意思を挫く可能性があるばかりか、そもそも弁護士への依頼の意思を挫くことにもなりかねない。そうなると、債務者救済のためのガイドライン改正が多重債務者を救済から遠ざけることになる。また債権者数に応じて何枚もの委任状に署名を求めるのは、迅速な事務処理が必要とされる債務整理の実情に合わない。さらに、受任通知を出す前に、住民票や印鑑証明書などの書類を用意しなければならないとすると、支払請求停止の効果を持つ受任通知の送付が遅れてしまう。
したがって、弁護士が代理人として開示請求する場合については、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知(FAXを含む)により十分かつ適切である」と例示すべきである。

以上
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