東京弁護士会

ホームレスの自立の支援等に関する基本方針に対するパブリックコメント

2013(平成25)年7月11日
東京弁護士会  会長 菊地 裕太郎

「ホームレス自立の支援等に関する基本方針」について以下のとおり意見する。

1 今回の「見直し(案)」について

(1) 「見直し(案)」では、「第1 はじめに」の項で「平成24年1月に実施したホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)によれば、路上等におけるホームレスの数については、全国で9576人が確認され、平成15年1月に実施された同全国調査の時点から17031人減少しており、これまでのホームレスの自立等に関する総合的な施策の推進等により、ホームレスが大幅に減少してきている」とある。
しかし、これには以下のような問題がある。
ホームレスの実態に関する全国調査でのホームレスの数の調査方法は、日中に目視での確認であり、夜間に終夜営業の飲食店で過ごしているホームレス等の数は的確に把握できない方法である。また、行政機関による河川敷などにおける一方的なホームレスの排除が行われていることに言及するべきである。ホームレスの数が減少した背景には、行政による強引なホームレスの排除が行われてきたことも否定できない。
こうしたことから、今回の全国調査の結果により「ホームレスが大幅に減少している」として、従来の施策の成果が上がっているとの結論を安易に導くべきではない。ホームレス自立の支援等の方針を決定するのであれば、さらに徹底した実態調査をして、その結果を踏まえた実効あるものとされなければならない。

(2) 「見直し(案)」では、「第3 ホームレス対策の推進方策」の2・(5)・イ・(エ)「若年層のホームレスに対する支援について」の項で、「直ちに一般就労が難しい者に対しては中間的就労に取り組んでもらうため、NPO等と連携しながら、このような中間的就労の場の推進・充実を図る」とある。
長期間勤務が難しい者や人間関係の構築が苦手な者に対し、支援団体等が就労体験やトレーニングを行い、一般就労につなげること自体は意義のあることであり、否定しない。
しかし、本年1月に厚生労働省が発表した「『生活支援戦略』に関する主な論点(案)」では、一般就労にいたらない場合でも「『低額・短時間であってもまず就労すること』への就労支援方針の明確化(月額5万円程度の収入をイメージ)」「それまでの求職活動を通じて直ちに保護脱却が可能となる程度の就労が困難と見込まれる稼働可能者については、低額であっても一旦就労することを基本的考え方とすることを明確にする。」とされている。ここに記載されているように、「中間的就労」が低額であってもとにかく就労をさせることを目的としたものであるならば、ホームレスの者を低額な労働力として提供することにつながりかねず、いわゆる貧困ビジネスに利用されるおそれがある。
よって、中間的就労については、貧困ビジネスに利用されないよう労働環境の質を確保する手段を検討することも併せて記載するべきである。例えば、最低賃金を下回る労働や労働法規違反の事実が発覚した場合は、当該中間的就労の場に改善を申し入れ、それが是正されなければそこでの就労を中止するなどの手段を検討するべきである。 

2 現行のホームレスの自立の支援等に関する基本方針について

(1)第3・2・(7)・ア「ホームレスに対し緊急に行うべき援助について」の(イ)の項には、「居所が緊急に必要なホームレスに対しては、シェルターの整備を行うとともに、適切な処遇を確保することに留意しつつ無料低額宿泊事業(社会福祉法第2条第3項第8号の無料低額宿泊事業をいう。以下同じ。)を行う施設を活用し、これらの施設への入居を図ることとする」とある。
しかし、「居所が緊急に必要なホームレス」とは、生活保護法第25条第1項の「要保護者が急迫した状況にあるとき」に該当する者である。よって、この者に対しては、「保護の実施機関は・・・すみやかに職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない」。すなわち、職権保護により速やかに生活保護を開始しなければならないのである。
ホームレス状態であっても生活保護を受けられることは、無差別平等の原則(生活保護法2条)から当然である。この点について、社援保発第 0731001 号平成15年7月31日各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生労働省社会・援護局保護課長通知「ホームレスに対する生活保護の適用について」でも、「1 ホームレスに対する生活保護の適用に関する基本的な考え方」として、「生活保護は、資産、能力等を活用しても、最低限度の生活を維持できない者、すなわち、真に生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的とした制度であり、ホームレスに対する生活保護の適用に当たっては、居住地がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものでないことに留意し、生活保護を適正に実施する。」と述べ、ホームレスでも生活保護が受給できることを明記している。
そして、生活保護法第30条第1項は「生活扶助は、被保護者の居宅において行うものとする。」として居宅保護の原則を定めており、ホームレスに対する生活保護の適用においても、第一次的には、公営住宅を活用するなどして居宅保護を開始すべきであり、「無料低額宿泊事業を行う施設を活用し、これらの施設への入居を図る」のではなく居宅保護が原則とされなくてはならない。居宅生活が困難な者だけが例外的に施設へ入居することになるに過ぎない。
よって、基本方針が「居所が緊急に必要なホームレスに対しては、シェルターの整備を行うとともに、適切な処遇を確保することに留意しつつ無料低額宿泊事業を行う施設を活用し、これらの施設への入居を図ることとする。」と述べて、ホームレスについては居宅保護の原則を適用せず、当然に無料低額宿泊所において保護を実施することとしていることは誤りである。ホームレスであっても居宅保護が原則であることを明記するべきである。

(2)第3・2・(7)・イ「生活保護法による保護の実施に関する事項について」の(イ)の項には、「就労の意欲と能力はあるが失業状態にあり、各種就労対策を実施しても就労が困難であると判断される者については、当該地域に自立支援センターがある場合には、自立支援センターへの入所を検討する。自立支援センターにおいて、結果的に就労による自立に結びつかず退所した者については、改めて保護の要否を判断し、必要な保護を行う」とある。
これは「就労の意欲と能力はあるが失業状態にあり、各種就労対策を実施しても就労が困難であると判断される者」については、生活保護よりも先に自立支援センターへの入所が優先し、「自立支援センターにおいて、結果的に就労による自立に結びつかず退所した」場合に初めて「保護の要否を判断し、必要な保護を行う」ことになる。
しかし、このような運用は、上記生活保護法第2条の無差別平等の原則に反し、上記厚生労働省社会・援護局保護課長通知「ホームレスに対する生活保護の適用について」が「ホームレスに対する生活保護の適用に当たっては、居住地がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものでないことに留意し、生活保護を適正に実施する。」と述べていることにも反するものである。
よって、この記載は法律にも厚生労働省の通知にも反する運用を奨励するものであるから削除すべきである。

以上

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