東京弁護士会

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆるカジノ解禁推進法案)の廃案を求める意見書

2014(平成26)年11月10日
東京弁護士会  会長 髙中 正彦

当会は、2014年11月10日開催の常議員会の審議を経て、標記意見をとりまとめました。

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第1 意見の趣旨

当会は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆるカジノ解禁推進法案、以下「本法案」という。)に対し、強く反対し、本法案の廃案を求めるものである。

第2 意見の理由

1 本法案の内容等
平成25年12月、国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する国会議員によって本法案が提出され、平成26年6月に衆議院で審議入りした。

本法案は、カジノ施設を含む「特定複合観光施設」を設置することができる区域として国の認定を受ける「特定複合観光施設区域」の整備を「推進する責務」を国に課すものであり(4条)、本法案が成立すると、政府は「1年以内を目処として」「特定複合観光施設区域の整備の推進」のために「必要となる法制上の措置」を「講じなければならない。」ことになる(5条)。

2 弊害の検証が不十分であること
しかし、我が国においては、賭博行為は、国民に怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、勤労の美風を害するばかりでなく、犯罪を誘発し、国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれがあるとして、刑罰をもって禁止されている(刑法185条、186条)のであり、もし仮に、賭博行為であるカジノを解禁するのであれば、あらかじめ、その違法性を阻却する具体的な事情の有無と弊害の検証が不可欠である。
この点、本法案は、政府は「カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響」の「排除を適切に行う観点」から、暴力団員等の排除、犯罪の発生の予防及び通報、風俗環境の保持、青少年の保護、カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い受ける悪影響の防止等のために「必要な措置を講ずる」とするが(10条)、その具体的内容は明らかでなく、そもそも上記のような「有害な影響」の「排除を適切に行う」ことが可能であるか否かの検証はなされていない。
このような「有害な影響」が生じる可能性を認めながら、カジノを解禁しないという選択肢を予め排除した上で、結論先にありきで、カジノを解禁し「推進する責務」を国に課すこととするのは、到底容認できない。

3 ギャンブル依存症の問題
とくに、我が国はギャンブル依存症の有症率が世界的にみて極めて高い。厚生労働省の研究の一環として行われた平成25年度の調査によれば、日本国内でギャンブル依存症の疑いがある者は男性8.7%、女性1.8%とされている(推定536万人)。諸外国のギャンブル依存症の有症率は1%前後とされているのに対し、突出した数字である。ギャンブル依存症は、患者のみならず家族らにも深刻な影響を及ぼすものであり、青少年の健全育成の観点からも問題がある。
そうすると、まずは、我が国において既に合法とされている競馬、競輪等の公営ギャンブルや我が国独自の遊技場としてのパチンコ等とギャンブル依存症との間の社会的・医学的因果関係を検証し、その結果に基づき、ギャンブル依存症を防止する対策を検討するのが、先決問題である。
とりわけ、本法案により解禁されようとしているカジノ施設におけるスロットマシンやテーブルゲームは、ゲームの速度や頻度の多さから、賭け金も天井知らずの額になりがちであり、競馬、競輪等の公営ギャンブルやパチンコ等と比較しても、ギャンブル依存症の発症率は相当程度高くなるものと考えられる。もし、本法案を成立させることによりカジノを解禁すると、ギャンブル依存症の問題は、今よりも、さらに深刻化する危険性が大いに懸念される。
にもかかわらず、十分な検証もないまま、本法案を成立させ、上記のとおり結論先にありきで、カジノを解禁し「推進する責務」を国に課すこととするのは、まさしく拙速といわざるを得ない。

4 ヤミ金等アンダーグラウンドマネー問題
賭博には、必ず敗者が存在する。カジノ施設の収益は、すなわち顧客の「負け金」である。本法案が成立し、カジノが解禁されると、顧客において、カジノでの賭け金を捻出するため(「負け金」を補うため)の借入を誘発するおそれがある。
平成18年の貸金業法改正(平成22年6月完全施行)及び官民一体となって取り組んできたこれまでの多重債務者対策等により、近年、多重債務者は激減し、その結果、破産者や経済的理由による自殺者も大きく減少してきたが、本法案が成立すると、ヤミ金融などのアンダーグラウンドマネーによる被害が再び起こることが懸念される。

5 経済効果以外のマイナス点
本法案は、特定複合観光施設区域の整備の推進が「観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものである」とするが、本当にこのような経済効果があるのかも、疑問である。
海外の調査では、カジノ施設の建設により、一方では、税収と雇用の増加が認められるとしても、他方では、ギャンブル依存症、抑鬱症などの病気への対策のほか、自己破産、自殺、犯罪等への対策等、様々なコストが増大することが指摘されている。
これらマイナス面の検証がほとんど行われないまま、安易な将来見通しに基づいた経済的効果のみを期待することはできない。

6 結論
以上のとおり、本法案を成立させ、カジノを解禁することについては、賭博罪の違法性を阻却するに足りる事由があるとはいえず、もし仮に、本法案が成立すると、刑事罰をもって賭博行為を禁止した立法趣旨が損なわれ、ギャンブル依存症等の「カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い受ける悪影響」をはじめ、様々な弊害をもたらすことが大いに懸念される。
よって、当会は、本法案に対し、強く反対し、本法案の廃案を求める。

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