東京弁護士会

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書

2015(平成27)年9月10日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

当会は、2015年9月7日開催の常議員会の審議を経て、標記意見をとりまとめました。

印刷用PDFはこちら(PDF:131KB)

意見書の趣旨

 特定商取引に関する法律を改正し,同法に,事前拒否者への電話勧誘販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Call制度」)及び事前拒否者への訪問販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Knock制度」)を導入することを求める。

意見の理由

1 内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会による中間整理

(1) 訪問販売や電話勧誘販売による消費者被害が後を絶たない。
 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された相談件数は,訪問販売全体では近年減少傾向にあるが,家庭訪販については増加傾向にあり,電話勧誘販売についても増加傾向にある(*1)。
 現行の特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)は,いわゆる飛び込みによる訪問勧誘や無差別な電話勧誘は許容したうえで,勧誘を受けた消費者が当該勧誘行為に対して契約を締結しない旨の意思を表示した場合に限り,勧誘の継続や再度の勧誘を禁止するにとどまっている(同法3条の2第2項,17条)。そのため,強引又は巧妙なセールストークによって消費者が明確に拒否できず,あるいは拒否をしたかどうかについて争いが生じやすく,消費者トラブルに対する効果的な規制とはなり得ていないのが現状である。
(2) このような状況のもと,内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会は,本年8月に中間整理を行ったところ,未だ議論の途中であるので確定的な結論は示されていないものの,「勧誘を受けたくないという消費者の要求を無視してはならないということは当然であるとの意見」,「消費者が勧誘拒否の意思表示を事前に行った場合,事業者はその意思を尊重して訪問勧誘・電話勧誘を行わないことを基本ルールとするべきという意見」,「事前拒否者への勧誘禁止(オプト・アウト制度)であれば,健全な販売業者への過度な負担は生じないのではないかとの意見」,「勧誘行為開始後に消費者が契約を締結しないという意思を示した場合に,これを無視して行うことは悪質な勧誘と捉えた平成20年改正の考え方は,消費者の意思が明確であれば,接触後の拒否か接触前の拒否かによって本質的な違いはないという意見」,「事業者に直接勧誘されてしまうと断りきれずに不本意な契約を締結してしまうのは,高齢者や判断能力が不十分な消費者に限られるものではないことから,全ての消費者が,あらかじめ簡便な方法で事前の要請や承諾当のない勧誘を拒否することができる制度とするべきという意見」等,制度導入に積極的な方向性の意見が多く示されている。

2 事前拒否者への勧誘禁止制度導入の必要性

(1) そもそも消費者が要請しない勧誘(いわゆる不招請勧誘)は,私生活の平穏を害するものであり,それ自体が消費者には迷惑なものである(近時の調査によれば,消費者の96%以上が訪問販売,電話勧誘販売を「全く受けたくない。」と回答している状況にある(*2)。)。
 また,不招請勧誘は,不意打ち的で一方的な勧誘になりがちであることから,事業者と消費者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差(消費者基本法1条,消費者契約法1条参照)が顕著となり,消費者が不本意な契約を締結させられたり,不当・不正な契約を締結させられたりする危険性も高い。
 近時,特に高齢者の消費者トラブルが増加しており,このような高齢者の消費者被害の予防・救済の観点からも,不招請勧誘について適切な規制が求められるところである。
(2) そこで,販売業者の営業の自由にも配慮したミニマムな規制として,既に多くの諸外国で導入されている(*3)事前拒否者への勧誘禁止制度(電話番号を登録した消費者への電話勧誘を法的に禁止するいわゆる「Do-Not-Call制度」,訪問販売お断りステッカーを門扉等に貼った消費者及び住所等を登録した消費者への訪問販売を法的に禁止するいわゆる「Do-Not-Knock制度」)を特定商取引法に導入すべきである。なお,訪問勧誘禁止の範囲を登録のみとすると,消費者に対する手続的負担が重くなる結果,同制度が有効に機能しなくなる懸念があるので,原則はステッカー貼付で足りるとすべきである。
 なお,事前拒否者への勧誘禁止規定に違反した勧誘行為は,現行法における再勧誘禁止違反と同様に,行政処分の対象とすることが想定されている。すなわち,直接の罰則を設けるものではないので,販売業者に対する過度な萎縮効果を及ぼすことにはならない。ただし,行政処分によっては十分に実効性が確保できない場合は,将来的には民事効果の付与を検討することも必要となろう。

3 事前拒否者への勧誘禁止制度導入に対する懸念への反論

(1) なお,事前拒否者への勧誘禁止制度導入に対して懸念を表明する意見としては,営業の自由に対する過度の制限であるというもののほか,消費者の商品選択の機会を減らすことになるなどといったものがある。
(2) しかしながら,事前拒否者への勧誘禁止制度は,消費者から承諾を得た勧誘や,勧誘を拒絶していない消費者に対する勧誘を否定するものではなく,単に事前に勧誘を拒絶した一部の者に対する勧誘を禁止するに過ぎないものであって,前記のとおりミニマムな規制である。
 また近時,インターネットの発達等により,消費者が商品選択に関する情報を入手する手段は以前と比べて格段に増加しており,もはや訪問勧誘や電話勧誘により商品選択の機会を提供する必要に乏しい状況になっている。さらには,勧誘を受けるかどうかの消費者の自己決定権を尊重する考え方(平成27年3月24日閣議決定「消費者基本計画」)からも,事前拒否者への勧誘禁止制度の導入は時代の要請といえるであろう。

4 結び

 以上のとおりであり,当会は,訪問販売や電話勧誘販売による消費者被害の根絶を図るため,政府に対し,特定商取引法を改正し,同法に事前拒否者への勧誘禁止制度を導入することを求めるものである。

以上

注釈

*1 内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(第4回)における消費者庁からの配布資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」
*2 消費者庁平成27年5月「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」
*3 諸外国の状況
(1) 電話勧誘販売に対する規制
① ヨーロッパ
EU指令において,EU加盟各国に対し,不招請勧誘目的の通信について,オプト・イン規制(不招請勧誘を原則として禁止し,例外的に同勧誘を同意した者のみに勧誘が許される制度)又はオプト・アウト規制(勧誘を拒否した者に対する勧誘を禁止する制度)のいずれかの措置を講じることを義務付けている。
それを受け,ドイツ,オーストリア,ルクセンブルクではオプト・イン規制を,イギリス,アイルランド,フランス,イタリア,ノルウェー,デンマーク,オランダ,ベルギー,スペインではオプト・アウト規制をそれぞれ導入している。
② 南北アメリカ
アメリカ,カナダ,メキシコ,ブラジル(州レベル),アルゼンチンで「Do-Not-Call制度」が導入されている。
③ アジア・オセアニア
オーストラリア,インド,シンガポール,韓国で「Do-Not-Call制度」が導入されている。
(2) 訪問販売に対する規制
① オーストラリア
法律による国レベルでの対応を行っている。すなわち,国の機関(オーストラリア競争消費者委員会)がお断りステッカーを作成・配布しており,これに違反した訪問販売業者に対して罰金を命じた裁判例がある。
② アメリカ
条例で「Do-Not-Knock制度」(ステッカー方式ないしレジストリ方式)を採用している地方自治体(市,町)があり,違反した場合に罰則を科すものも多い。
③ イギリス
各地方自治体においてお断りステッカーの配布に取り組んでいる。
④ ルクセンブルク
法律による国レベルでの対応を行っている。すなわち,事業者による訪問販売を拒絶したい場合は,お断りステッカーを掲示することができるものとし,それに違反してなされた訪問販売により締結された契約について,消費者は無効を主張できるものとされている。

  • 法律相談インターネット予約
  • 中小企業法律支援センター
  • 弁護士会の法律相談センター
  • 借金専門法律相談センター
  • 日弁連ひまわりお悩み110番