「成年後見制度利用促進基本計画の案」に盛り込むべき事項に関する意見募集(パブリックコメント)に対する意見
2017(平成29)年2月16日
東京弁護士会 会長 小林 元治
当会は、「成年後見制度利用促進基本計画の案」に盛り込むべき事項 (以下、「内閣府案」という)に関する意見募集に対し、2017年2月13日開催の常議員会の審議を経て、以下のとおり、 意見を取りまとめ、内閣府に提出しました。
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1 成年後見制度利用促進基本計画について
(1)成年後見制度利用促進基本計画の位置付け
(2)基本計画の対象期間
上記項目について、特筆すべき意見はない。
2 成年後見制度利用促進に当たっての基本的な考え方及び目標等
(1)基本的な考え方
現行制度が抱える問題について、運用の在り方の検討のみを提案する内閣府案は不十分である。運用を改善する必要があることは明らかだが、運用改善と同時に法改正へ向けた検討を直ちに行うべきである。
現行制度における後見・保佐類型は、利用者毎に異なる残存能力の程度と制度利用の必要性の個別的な審査をせず、利用によって実際に必要とする以上に定型的かつ広範に権利制限となる行為能力制限や代理権付与がなされてしまう傾向が強い。運用によって補助類型を最大限活用したとしても、後見・保佐類型を利用せざるを得ない利用者にとっては問題が残る。また、制度利用の必要性や類型の適切性を定期的に審査する仕組みもない。このような過剰な介入は、利用者の保護が目的に含まれるとしても、本人の自由に対する制約となる以上、自己決定権の尊重という理念に反するおそれが大きい。
利用者毎に異なる残存能力や援助を必要とする事情に基づく必要最小限の支援と、定期的に支援の範囲を見直しできる制度へ早期の法改正を行うことが、自己決定権の尊重という理念に重きを置く国としてのあるべき姿勢である。
(2)今後の施策の目標等
内閣府案が提案する今後の施策の目標等が、今後の成年後見制度の利用促進のために重要な意義を有することに異論はない。ただ、加えて、今後の成年後見制度の利用促進に向けて、弁護士がより積極的に役割を果たしていくことが必要である。
社会の複雑化とともに、消費者被害や虐待等の権利侵害案件や親族間紛争案件、遺産分割や売買、賃貸借、扶養等の様々な法的課題が含まれる案件が増えてきている。このような案件において、本人の権利を最も適切に支援できるのは、法律の専門家として、訴訟や調停等の手続きに通じ、日頃より紛争案件を処理(成年後見人等として困難案件を処理)する弁護士である。今後、特に中核機関の整備が、成年後見制度をより利用しやすいものにしていくために必要となっていくが、弁護士が、法律専門家として、親族後見人や市民後見人が悩む法的相談に的確に対応し、また権利侵害案件について、法的解決を視野に入れてとるべき措置を関係者に迅速かつ適切に助言していく体制を整備していくことが極めて重要である。
中核機関については、弁護士、司法書士、社会福祉士が歩調を合わせ、各々の特性を生かしながらその運営を支援していくことが肝要である。
3 成年後見制度の利用の促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策
(1)利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善
中核機関は家庭裁判所の適切な後見人の選任のための後見人等の情報伝達場面においても、本人と親族を含む関係者が対立する場面がありうること、関係者のプライバシーなどの観点から、設立・運営は区市町村が原則として担うべきで、運営を委託する場合も中立性、公正性のある社会福祉協議会などによるべきである。
また、成年後見制度利用開始後の後見人等の交代に柔軟性を求める意見は従来実務が硬直に過ぎた点も否めず評価できるが、反対に安易な交代を求めることができる制度では、本人と一部の親族関係者との対立がある際に本人の意思の尊重・配慮義務を果たすことができないため、地域連携ネットワーク及び中核機関が必要な情報を把握して、これを家庭裁判所に適切に提供し、本人の適切な権利擁護の観点から必要な場合に柔軟な交代が出来る制度とすべきである。
診断書等について、医師に事前に本人の生活状況や家庭的社会的状況等に関する情報が伝えられるよう検討することは相当だが、家庭裁判所が作成している書式については知的障害や精神障害に対して十分対応できていないなど、見直しが必要である。
(2)権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり
要支援者を早期発見するための窓口や、後述のチーム、地域における協議会への弁護士の関与を明記すべきである。
また、中核機関の設置・運営主体、委託先については、個人情報を扱うこと、各種ノウハウの蓄積、多職種間での連携支援、マッチングのための名簿その他後見人等の情報を家庭裁判所へ提供することから、各職種から中立性のある市区町村が設置のみならず運営にも実質的に関与(委託先の実質的監督を)すべきと考える。
なお、運営委託先に民間法人をあてる場合にも実績のある社会福祉協議会等が相当であり、部分的な外部委託は、身上監護と財産管理の連携の点から許すべきでない。
さらに、適切な後見人等選任のため、候補者がどの地域のチーム等による支援を受けているか等の事情を家庭裁判所が把握する運用の実現及び選任事務を行う家庭裁判所の量的充実、予算的充実を求めるべきである。
加えて、法人による後見人等を認める際には当面は法人自身に実績を求めるとともに、後見事務経験のある弁護士等の関与を求める運用が好ましい。
なお、人権制約の面も持つ後見等の監督は将来的にも司法手続きの一環として最終的に家庭裁判所が責任を持つべきである。
(3)不正防止の徹底と利用しやすさとの調和
不正防止策として、現在活用されている後見制度支援信託に並立・代替する新たな方策を検討し、選択肢を増やすことは相当である。本人名義の預貯金口座について、後見人による不正な引出し防止の見地から、元本領収についての後見監督人等の関与を可能にする仕組みを導入することについても、支持されてよい。現状、金融機関との関係で、後見監督人等の選任の届出すらできないところが多いが、金融資産との関係で監督人の関与を一定程度認めることも検討されるべきである。
移行型任意後見契約における必要な場合に至っている際の監督人選任申立の欠缺が、任意後見制度における不正の一つの温床になっていることについては、中核機関が適切な指導ができるように、任意後見契約締結に伴い、それが中核機関に登録されるような制度の導入も検討すべきである。
(4)制度の利用促進に向けて取り組むべきその他の事項
資力がなくとも権利擁護のために成年後見制度が必要となるケースは多いが、後見報酬や申立費用が足かせになって制度の利用に至らないケースも少なくない。この意味で、成年後見制度の利用促進を図るには、成年後見制度利用支援事業の実施体制の整備が急務である。現状、同事業の対象が、首長申立てに限定されていて本人申立てや親族申立てに適用されなかったり、生活保護受給者には適用されなかったりするなどの制約が認められるケースも多いが、同事業が幅広く活用される体制を整備していく必要がある。また、そのために、予算と財源の確保が必要であることも言うまでもない。
区市町村による成年後見制度利用促進基本計画(市町村計画)については、その策定にあたって、弁護士、司法書士、社会福祉士を中心とする専門職が積極的に参加して、今後の連携の在り方について十分検討することが必要である。
(5)国、地方公共団体、関係団体等の役割
成年後見制度利用促進に向けて整備される人的、物的体制の整備には一定の財源確保が必要となる。中核機関を担う市町村あるいは社会福祉協議会の人的パワーは、成年後見制度の利用促進を考えたとき、全く不足している。国、地方公共団体においては、予算と財源の確保がまず必要である。また、利用者の増加に伴い家庭裁判所による監督機能の負担が増えることが想定されるが、これは、この業務の一部を外部に委託することにより対応するのではなく、家庭裁判所の人的、物的体制の拡充により対応するべきであり、国においては、そのための予算と財源の確保が必要である。
また、東京弁護士会は、意見書記載のとおり、地域ネットワークや中核機関における活動を適切に支援していくとともに、複雑な案件において適任者を候補者とする成年後見人名簿を備え、推薦していく所存である。
(6)成年被後見人等の医療、介護等に係る意思決定が困難な人への支援等の検討
成年後見人等に医療現場において多職種の協議に参加し家族間の意見を調整する、という意思決定支援者としての役割を認め、その役割を果たせる環境整備や事例の共有、現場での合意形成等の必要性を説く意見書の指摘については、異論はない。
また、成年後見人等が医療現場で意見を求められた場合、関係者からの助言を受け、所見を述べまたは反対に所見を控えるという態度をとることが社会的に受け容れられるような合意形成の必要性も肯定でき、合意形成に向けて成年後見人等への周知・研修の充実、周辺環境の整備等が急務であると考える。
さらに、終末期医療におけるガイドラインを参考に、本人が意思決定できないときは意思を推定し、推定もできないときはどのようにして医療を提供するか、といった観点から医療現場における成年後見人等の役割についてガイドラインを整備することも、支援の方針・決定プロセスを明らかにし予測可能性を持たせる点で、賛成できる。
もっとも、ガイドラインの整備は過渡的な解決策にすぎず、成年後見人等の医療同意権の肯否については立法による解決が検討されるべきである。
(7)成年被後見人等の権利制限に係る措置の見直し
ノーマライゼーションの見地から、あるいは成年後見制度利用促進の見地から、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度(いわゆる欠格条項)について速やかに必要な見直しを行うとの意見書の方向性に異論はない。
(8)死後事務の範囲等
「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が施行されたが、保佐、補助に関する整備がされていない。保佐、補助の利用促進を図るという意味では、代理権を有する保佐、補助の場合についても、必要があるときは法的根拠をもって対応できるようにするための法整備が必要である。
また、死後事務に関して、後見人が、後見業務終了時に後見報酬支払いのために預貯金の払戻しをすることが必要となる場合も少なくないが、この点の可否、要件に関する改正法の解釈には曖昧さが残る。後見報酬が後見業務に付随するものであることに鑑み、この点を明確に可能とする法整備が必要である。