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夜間定時制高校4校の廃止(閉課程)に反対する会長声明

2016年02月01日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 東京都教育委員会は、平成27年11月、「都立高校改革推進計画・新実施計画(案)」(以下、「計画案」という。)を取りまとめ、その中の「定時制課程」の「改善」において、チャレンジスクールや昼夜間定時制高校の規模を拡大する一方で、夜間定時制課程(以下、「夜間定時制高校」という。)のうち、立川高校(立川市)、小山台高校(品川区)、雪谷高校(大田区)、江北高校(足立区)の4校を廃止(閉課程)するとした。
 しかし、東京都においては、平成9年度から平成18年度における「都立高校改革推進計画」の中で、101校存在した夜間定時制高校のうち44校が、チャレンジスクールや昼夜間定時制高校への統合対象とされることとなった。これに対し、当会は、生徒らの学習権を侵害するおそれが高いことなどから平成16年6月7日付け「都立定時制高校の廃校による募集停止措置についての意見書」を発表し、再検討を求めた。にもかかわらず、平成16年度以降、定時制高校の統廃合が進められ、現在、夜間定時制高校は44校となっている。
 こうした統廃合の結果、夜間定時制高校は、全日制高校に通うことの出来ない生徒らの最後の受け皿としての機能が期待されているにもかかわらず、平成22年度都立高校入学者選抜においては、夜間定時制第二次募集では、募集定員に対し合計300人を超える応募があった。現在も、廃止(閉課程)の対象とされている立川高校では、平成27年度都立高校入学者選抜の二次募集で入学希望者が募集定員を超えている。こうした状況において、さらに4校の廃止(閉課程)が計画されているものである。
 今回の廃止(閉課程)の理由として、計画案では、まず夜間定時制高校設立の当初に想定されていた「勤労青少年」の生徒は減少の一途をたどり多様な生徒が在籍するようになっていて、多様な生徒の状況に応じた指導を行う必要があるとされている。しかし、当会の先の意見書においても指摘した通り、そもそも多様な生徒のニーズに応える上で、学校の種類や数の拡大はともかく、夜間定時制高校という既存の学校の廃止が必要といえるのかとの疑問は払拭されていない。上記計画が減少してきたとする「勤労青少年」は正規雇用者のみを意味し非正規雇用者を除外していると考えられ、非正規雇用者が増加している実態が踏まえられていないと言うべきである。また、同じく夜間定時制高校の廃止理由とされる、全日制・定時制併置校における施設の共用による利用上の時間的制約という弊害についても、学校現場における長年にわたる自発的努力によって工夫、解決されてきたものであり、さらなる廃止(閉課程)を要するほどの弊害があるのか、疑問がある。
 また、夜間定時制高校は、少人数の家庭的な雰囲気の単学級(ないし少数学級)として運用されてきたとの特性もあって、昼間就業しながら夜間勉学する勤労生徒をはじめ、帰国子女、外国から日本に帰化した生徒、在日外国人などの外国人生徒、社会に出たあと高校卒業の必要性を感じて入学してくる成年者の生徒、高校を中退した生徒、様々な原因で中学校まで不登校であった生徒や引きこもり傾向であった生徒、心身にハンディキャップをもつ生徒、夜間中学出身者などの、多様な生徒を受け入れ、憲法26条第1項に定める、教育を受ける権利を保障する重要な受け皿となっている。これに対し、計画案では、生徒らの多様なニーズに応えるという視点から既存のチャレンジスクール及び昼夜間定時制高校の規模拡大と、チャレンジスクール2校の新設が検討されている。しかし、これらの学校は単位制で、特に3部制の高校については教員同士の情報共有が難しいなどの指摘もされているところであり、多様な課題を抱えた生徒に対して個別・丁寧な対応を目指す夜間定時制高校とは趣旨が異なる。その上、チャレンジスクールは応募倍率が高いことが指摘されており、新設されても狭き門であって、夜間定時制高校へのニーズを持つ子どもたちが、事実上、教育機会を失う結果となりかねない。
 さらに、夜間定時制高校が対象として想定する生徒らにとっては、通学費の増大や通学時間の長時間化は、経済的、体力的、精神的に通学そのものを困難とする可能性が高い。既に、これまでの統廃合の結果、例えば、立川高校定時制課程に在籍する生徒の居住地は、平成27年5月1日現在、全生徒301人のうち、立川市49人、八王子市47人、東大和市29人、武蔵村山市24人、昭島市20人などと広域化している。また、江北高校は平成27年4月7日現在、4学年併せて180人もの生徒が在籍しており、需要が高い。さらに、雪谷高校と小山台高校は、比較的近距離に位置し、2校が同時に廃止(閉課程)の対象となれば、周辺地域の生徒に対する弊害は大きい。なお、計画案においては、既存のチャレンジスクール等7校の規模拡大が検討されているものの、これらの学校の多くは、廃止(閉課程)される4校とは地域を異にし、生徒らが通学に利用する路線も異なっており、4校の廃止(閉課程)を補完するには不十分であることは明らかである。こうした状況においては、4校が廃止(閉課程)となれば、通学に要する経済的、体力的、精神的負担の増大は避けられない。まして、子どもの貧困がますます拡大し、学費等の自己負担を強いられる者が増加している現状においては、こうした負担増が教育機関へのアクセス権に及ぼす影響は重大である。
 以上の実情を踏まえれば、夜間定時制高校4校を廃止(閉課程)することは、現在の夜間定時制高校へのニーズを持つ子どもらにとって、その学習権を侵害するおそれが極めて強く、たとえ限られた予算の有効な配分を理由としても決して許容されるものではない。
 従って、当会は、夜間定時制高校4校を廃止(閉課程)とする計画に対し、強く反対する。

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