時間外、休日、深夜労働の規制を!「労働時間に関する男女共通規制の早期実現に向けての意見書」要旨
東京弁護士会1997年10月
[1]時間外・休日労働の規制
1999年4月には労基法の女子保護規定が撤廃され、女性も長時間労働が可能と
なります。しかし、男性の長時間労働、過労死問題は一向に改善されていません。健康で、家庭と職業を両立できる生活が、男女ともに可能となるように、今こそ男女共通の労働時間規制が必要です。労働時間短縮のためには総量規制とコストアップが二
本柱となります。意見書では主に次のような提言を行っています。
1 時間外労働の上限を年間150時間、時間外労働を含め1日最長10時間とする法的規制を設ける。強制力のない規制には反対。
2 週1日の法定休日労働は原則禁止とする。
3 割増率を時間外50%、休日100%とする。
4 割増賃金の算定基礎に賞与一時金を含める。住宅手当の除外には反対。
5 家族的責任を有する労働者に免除請求権を与える。
6 女子保護規定撤廃に伴い激変緩和措置を設ける。
[2]深夜業の規制
女子保護規定が撤廃され、女性も男性も深夜業が可能となります。このことで女性
が自分の能力を発揮できたり、消費者にとって便利なことも少しはあるかもしれません。しかし、深夜業は健康を害し、家庭生活に多大な影響を及ぼし、社会生活に支障
をきたすものでもあるのです。両親が深夜働いている子供、すれ違いの夫婦、慢性的
な睡眠不足や疲労、これで豊かな生活といえるでしょうか。人間の本来のリズムに反
した深夜業は極力やめるべきです。やむを得ずする場合でも厳しく規制すべきです。
本当に必要なものなら、厳しい規制でコストアップになっても残ります。規制に耐えられないのなら、逆に本当に必要なものか考え直すべきではないでしょうか。意見書
では主に次のような提言を行っています。
1 深夜を含む労働時間を原則8時間までとする。
2 勤務の回数制限を設ける。
3 勤務終了後少なくとも連続12時間の休息時間を与える。
4 割増率を少なくとも50%以上にする。
5 特別な事情(健康、高齢、家族的責任)を有する者に免除請求権と配置転換請求権を与える。
6 就業環境等(安全な通勤手段、休憩施設など)の整備を義務づける。
[3]対照表
現 行 法 | 試 案 | 報 告 | 東 弁 |
---|---|---|---|
(時間外・休日労 働の上限) 男性は労使協定を締結すれば無制限、女性も1999年4月から同様に無制限になる |
目安指針に法的根拠を設け、実効性を高める | (労)年150時間を目標としつつ当面年360時間を上限とする法的規制 法定休日労働原則禁止(当面4週間に1回を上限) (使)目安指針の実効性を高めそれを労使が尊重 (公)合意の得られた範囲から措置すべくまず目安指針に法的根拠を設ける |
年150時間、時間外労働を含めて1日最長10時間の法的規制 法定休日労働原則禁止 |
(激変緩和措置) 定めなし |
目安指針において経過的に何らかの配慮をする | 何らかの措置が必要、更に検討する (労)時間外・休日労働の法的規制を実現することが原則 |
男女共通の労働時間規制と労働時間短縮の方向を明らかにした上で、暫定的措置として実施する |
(代償休日) 定めなし |
目安指針に定める水準を超えた場合に代償休日を付与する | 具体的内容について更に議論する (労)取得期間の明示及び賃金の取扱いについて明確化する |
強制力のある上限規制を行うべき、基準を超えることを前提にした代償休日には反対 |
(時間外・休日労
働の割増率) 時間外25% 休日35% |
一定の時期に 引上げについて 検討を開始する | (労) 時間外50% 休日100% (使) 引上げの余地 なし (公) 最新の実態を踏まえた検討を要し、引き続き関係者の合意を形成する |
時間外50% 休日100% |
(割増賃金の算定基礎) 算定基礎から除外されるのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
住宅手当の除外を検討する | (使)住宅手当の除外を可能にする (労)住宅手当の除外は不適当 一時金の算入を検討 (公)最新の実態を考慮する必要、引き続き検討 |
住宅手当の除外に反対 賞与一時金を新たに含める |
(家族的責任を有する者の時間外・休日労働) 定めなし |
免除請求権を付与 | ||
(深夜業) 男性は規制なし、これまで禁止されてきた女性も1994年4月から規制なし |
やむを得ない場合を除き本来すべきでなく、男女共通の法 的規制が必要 | ||
(深夜勤務時間、回数) 定めなし |
(労)上限を設ける (使)上限を設けない (公)健康確保等のため何らかの措置を検討 |
深夜を含む労働時 間を原則8時間までとし、時間外、変形制労働を禁止 勤務体制に応じ回数を制限 |
|
(深夜業の休息時間) 定めなし |
勤務終了後少なくとも連続12時間の休息を付与 | ||
(深夜業割増率) 25% |
時間外・休日の割増率と併せて検討する | (労)50% (使)引上げの余地なし (公)最新の実態を踏まえた検討を要し、引き続き関係者の合意を形成する |
少なくとも50%以上 |
(特別事情を有する者の深夜業) 1999年4月から、家族的責任を有する者には免 除請求権が付与される |
特別事情(健康、高齢、家族的責任)により、免除請求権と配置転換請求権を付与 | ||
(深夜業の環境) 定めなし |
就業環境等の整備を事業主に義務づけ |
「試案」 1997年7月2日労働省「今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方について(中間的取りまとめに向けての議論のために)」
「報告」 1997年8月6日中央労働基準審議会「今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方に関する中間的取りまとめについて」
(公) 公益委員の意見
(労) 労働者側委員の意見
(使) 使用者側委員の意見
「東弁」 本意見書で述べている東京弁護士会の意見
「目安指針」 労働省告示の時間外労働協定の適正化指針