東京弁護士会

機能性表示食品制度に対する意見書

2016(平成28)年1月13日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

当会は、2016年1月12日開催の常議員会の審議を経て、標記意見をとりまとめました。

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第1 はじめに

1 機能性表示食品制度が2015年4月1日から運用されている。これは,特定保健用食品,栄養機能食品以外のいわゆる健康食品等について,食品関連事業者の責任において,消費者庁長官に届け出ることによって,一定の機能性の表示を可能とする制度である。
 機能性表示食品制度については,当会でも2013年12月13日付「健康食品の新たな機能性表示に反対する意見書」において,いわゆる健康食品などで標榜される機能性について科学的根拠が乏しいことや安全性の確保について不充分であることなどから,反対の意見を表明したところである。

2 制度的欠陥
 そして,実際に運用が開始されると,ガイドラインが策定されたものの,それが緩やかであることもあって,当会が懸念したように,食品関連事業者が消費者庁長官に届け出た機能性表示食品について安全性に疑義がある,機能性の科学的根拠が不充分であると指摘されるなど,様々な問題点が指摘されている。なかでも,同一関与成分を使った別の商品が特定保健用食品として申請されたものの食品安全委員会が「安全性が確認できない」と評価したにもかかわらず,機能性表示食品としての届け出がなされ,受理された食品まであることが判明している。すなわち,安全性が確認できないと国の専門機関が判断した成分と同一の成分を使った食品について,機能性を表示して販売することが許されてしまう事態になっているのである。
 このように制度の問題点が顕在化してきたことから,当会は,本制度の問題点をふまえたうえで,本制度は廃止されるべきであるとの意見を述べる。

第2 意見の趣旨

 機能性表示食品制度には,以下の問題点があるため,廃止を含めた見直しが検討されるべきである。

1 他の行政機関の手続において,安全性が確認できないとされた成分を含む機能性表示食品の届出が受理されている。 
2 安全性評価の際に判断基準とされる食経験についての基準が販売実績だけを根拠とするものも受理されている等,諸外国の基準に比べて緩く,安全性が確保されない。
3 機能性の科学的根拠を説明するための「最終製品を用いた臨床試験」「最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビュー」の内容が緩く,機能性の科学的根拠が不十分な食品が流通する危険がある。
4 機能性の表示が過度に強調されている一方,消費者庁長官による個別審査を受けたものではない旨の表示は,控えめな表示にとどまっており,消費者の誤解を招く。
5 適格消費者団体による差止制度の対象外とされているほか,健康被害が生じた場合の被害救済制度がないし,事業者に対する健康被害が生じた場合の公表体制の構築もなされていない。

第3 意見の理由

 機能性表示食品制度には,意見の趣旨で列挙した数々の問題点がある。このように多くの問題点を抱える制度については,早急に制度の廃止を含めた見直しがなされるべきである。

1 問題点1項について

先般,報道でも大きく取り上げられたように,同一関与成分を使った別の商品が特定保健用食品として申請されたものの,食品安全委員会が「安全性が確認できない」と評価したにもかかわらず,機能性表示食品としての届け出がなされ,受理された食品まであることが判明している。
 かかる運用は,特定保健用食品の制度の潜脱を許容するもので行政作用の統一性に反するばかりではなく(内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当)までもが,特定保健用食品と機能性表示食品の違いが分かりにくいとコメントしている),安全性に疑義のある食品を容易に市場に流通させることになりかねない。
 食品は消費者が体内に摂取するものである以上,安全性の確保には十分な配慮が必要であり,他の行政機関において安全性が確認できないとされたものを機能性表示食品として流通させることなど看過できない。
 かかる事態を招いたのは,機能性表示食品制度が届出制とされているためであるから,せめて登録制を採用すべきであるが,そもそも本制度には他にも本項以外に述べる問題点もあることから,制度の廃止を含めた見直しがなされるべきである。

2 問題点2項について

 機能性表示食品の届出等に関するガイドライン(以下,「ガイドライン」という)においては,機能性表示食品の安全性評価につき,まず届出をしようとする当該食品又は類似する食品について喫食実績により安全性が十分に確保されているか否かを確認し,喫食実績がない場合は既存の情報によって安全性試験結果を評価し,安全性試験結果の情報が十分に得られない場合には安全性試験を実施することされている。
 ところが,実際に届け出られた内容をみると,喫食実績があると評価することに疑問があるような内容の届出が散見される。
 例えば,サプリメント形状の食品につき,健康食品として販売してきた実績をもって食経験がある,として届け出ているものがあり,しかもその販売期間が短いものだと1年にみたないものがある。
 販売実績だけでは,摂取した消費者の数,摂取の頻度も不明であるし,そもそも食経験の有無は長期間摂食し続けても健康被害が生じない点に安全性の根拠を見いだしているわけであるから,食経験があると評価できる程度の期間は摂取され続けている食品である必要がある。
 この点,消費者庁の「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」の報告書においても,脚注において参考として「食経験の考え方として,例えば,FDA(米国食品医薬品局)は仮の目安として広範囲に最低25年摂取されていること,オーストラリア・ニュージーランド食品基準局は,摂取期間(2~3世代あれば使用歴として十分だが,5年以下では短いと考えられること,条件次第では10~20年でも十分な使用歴と考えられること)を示しているのに対し,現状の届出の内容は到底これに及ばない。
 また海外で既に深刻な健康被害の症例が報告されているような場合には,その被害事例を軽視すべきではないが,そのような成分が含有されている食品も現状では受け付けられてしまう。
 このように届出制であることによっては安全性が確保されないことから,せめて登録制とし国が安全性について積極的に関与すべきであるが,本制度には本項以外に述べる問題点があることから制度の廃止を含めた見直しがなされるべきである。

3 問題点3項について

 ガイドラインにおいては,本制度での機能性にかかる要件について「最終製品を用いた臨床試験」又は「最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビュー」が必要とされている。
 このうち,前者については,その計画についてUMIN(University Hospital Medical Information Network)臨床試験登録システムに事前登録が行われている必要があり,研究計画についてはその詳細について必ず事前登録前に登録を完了していなければならず,機能性の実証に係る項目に関して事前登録後に実質的な変更を行った研究については,機能性表示食品の機能性に係る科学的根拠とすることができないとされている。また,臨床試験に係る提出資料として求められている査読付き論文は,国際的にコンセンサスの得られた指針に準拠した形式である必要がある。
 ところが,食品表示基準の施行後1年を超えない日までに開始された研究については,事前登録を省略できることになっているうえ,国際指針に準拠していない形式による報告でも差し支えないとされており,ガイドラインによる規制が緩和されている。
 上記要件は,機能性に係る資料の客観性を担保するためのものであり,制度開始後1年を超えない日までの間であってもこれを緩和する必要はない。そうでなければ,上記要件を設けた意味が没却される。
 また,ガイドラインにおいては,論文の通数は問題とされていないうえ,実際に届出に添付された論文のうちには,査読つき論文ではあるが,社外の第三者による査読ではなく,自社内における査読しかなされていない論文もあり,信用性のない論文しか根拠資料がなくても受け付けられている。さらに,論文の作成者と届出事業者との間の利益相反についても,利益相反に関する情報を記載すれば足り,実際に利益相反がないことまでは要求されていない。
 これでは,機能性に係る資料の客観性・信用性を担保するのに不十分である。論文の通数や査読の客観性を要件とする,利益相反がないことを要件とする等,機能性の根拠に係る資料については厳格にすべきであるが,そもそも事業者の自主性に委ねる届出制ではこうした厳格性を確保できないことから,せめて登録制とすべきであり,さらにいえば,本項以外にも多くの問題点を抱える本制度は廃止も含めた見直しがなされるべきである。

4 問題点4項について

 機能性表示食品の容器包装上,機能性関与成分が有する機能性については,容器包装の一番目立つ箇所に目立つ態様において記載されているのに対し,当該食品の機能性及び安全性について国に評価を受けたものではない旨は,記載場所が容器包装の側面であったり,文字の大きさが小さい,文字色も控えめである等,目立たないものとされていることが多い。これでは,消費者が,当該食品の機能性及び安全性につき国の評価を受けたものではないことに気付かず,当該食品の性質を誤解する危険がある。その結果,消費者の食品選択時の意思決定が歪められる危険があるし,当該食品に機能性及び安全性があると誤信して摂取しすぎる等の危険がある。
 このような消費者に誤認を与える表示を許容すべきではないから,表示のあり方について是正されるべきであるが,さらにいえば,本項以外にも多くの問題点を抱える本制度は廃止も含めた見直しがなされるべきである。

5 問題点5項について

 国民の生命身体の安全保護の見地からは,機能性表示食品の表示基準違反が適格消費者団体による差止請求の対象外とされる理由はないが,現行法上は除外されており(食品表示法11条),被害防止の観点からは問題である。
 また,現行制度においては,健康被害が生じた場合の救済制度や公表体制は整っておらず,事業者の自主的対応に委ねられている。
 健康被害については,被害が広汎にわたり賠償額が高額になるため事業者の資力が不足し賠償を受けられない,或いは,賠償を受けるまでに時間がかかるという難点があり,医薬品による被害については独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による救済制度が設けられているのに対し,機能性表示食品による健康被害にはこのような救済制度がない。
 また,ひとたび健康被害等が生じた場合,事業者が速やかに公表する等の公表体制が構築されていなければ被害拡大を未然に防止することができないが,そのような制度もない。
 このように,機能性表示食品制度は,被害救済,被害発生防止の制度が極めて薄弱な制度であるが,国民の生命身体の安全保護の見地からは,このような制度を存続させておくことは問題であるから,制度の廃止を含めた見直しがなされるべきである。

以上

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