東京弁護士会

消費者被害の観点からの民法の成年年齢引下げの議論に関する意見書

2017(平成29)年2月13日
東京弁護士会 会長 小林 元治

当会は、2017年2月13日開催の常議員会の審議を経て、標記意見書をとりまとめました。

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第1 意見の趣旨

1 民法の成年年齢については、18歳に引き下げるべきではない。
 引き下げによる多くの問題点(未成年者取消権の喪失、親権対象年齢の引下げ、養育費支払終期の繰上げ、自立に困難を抱える若年者の困窮者の増大、労働基準法第58条による労働契約解除権の喪失等)への対応策が未だ十分にとられているとはいえないことから、現時点での民法改正による成年年齢の引下げには反対する。
 特に消費者被害の観点からは、若年消費者保護のための諸条件の整備を実施し、その結果を検証したうえで検討を始めるべきであって、現状、依然としてその時期でないことが確認されるべきである。

2 若年者の消費者被害の救済と予防の観点に絞っても、成年年齢の引き下げを検討するに先立ち少なくとも下記のような施策の実施とその結果の検証が必要不可欠であり、施策の効果が十分に発揮されそれが国民の意識として現れ、国民のコンセンサスが得られない限り成年年齢の引き下げには反対する。
(1)つけ込み型不当勧誘についての消費者契約法による取消権の創設、特定商取引法上の民事ルールの特則の創設など、従来の民法の「未成年者取消権」に匹敵するような消費者保護民事ルール規定の創設
(2)特定商取引法について若年者勧誘に対する事業者への規制強化
(3)若年者のクレジット契約および借入について、資力要件およびその確認方法の厳格化
(4)消費者教育の充実・強化に向けて抜本的な改革

第2 意見の理由

1 成年年齢引下げ問題に関する当会の基本的な考えおよび本意見書の位置づけ

(1)民法の成年年齢を20歳から18歳へ引き下げるという議論は、2007(平成19)年5月に成立した国民投票法が国民投票権の年齢を18歳に定めたことに端を発し、2009(平成21)年10月に法制審議会の最終報告書が発出された。(*1)
 同報告書では、民法の成年年齢を18歳に引き下げることを適当としながらも、「ただし、現時点で引下げを行うと、消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である。」とし、「民法の定める成年年齢を18歳に引き下げる法整備を行う具体的時期については、関係施策の効果等の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識を踏まえた、国会の判断に委ねるのが相当である。」として留保が付された。
(2)同報告書が最終的に発出される前の段階で、当会においても2009(平成21)年7月30日、「『民法の成年年齢の引き下げについて』に関する意見書を発出し、成年年齢の20歳からの引き下げ自体に反対したうえで、仮に引き下げを検討するとしても、消費者保護や若年者保護のための諸条件の整備を実施し、その結果を検証したうえでなければ検討を始めるべきではない、という意見を述べた。
 同意見書は、成年年齢の引下げは、消費者被害拡大への懸念のみならず、児童福祉法や少年法など他の法律への事実上の影響、養育費支払終期の繰上げ、などの諸問題を包摂するため、それらに対する施策の整備とその検証が必要不可欠と判断し、消極的結論に至ったものである。
(3)その後、現在に至るまで上記の施策の整備はなされておらず、状況に変化がないところから、当会は、現時点においても同意見書の主張及び結論を維持するものであり、そのことがまず確認されなければならない。
(4)ところが、上記のとおり未だ状況に変化がないにもかかわらず、2015(平成27)年6月に選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法が成立したことをきっかけとして、現在、成年年齢引下げの民法改正法案提出への動きが加速している。
 2016(平成28)年9月には引下げの施行時期や方法を具体的に尋ねる 法務省によるパブリックコメントが実施され、法案はいつ国会に提出されてもおかしくない状況である。
 しかし、一方では、同月からは内閣府消費者委員会において成年年齢引き下げ対応検討ワーキンググループが立ち上げられて、成年年齢が引き下げられた場合の消費者被害の防止・救済についての検討が行われ、2017(平成29)年1月10日には消費者被害拡大の懸念と施策の必要性を指摘する報告書が出されている。(*2)
(5)上記の状況を踏まえて、当会としては、まずは、成年年齢引下げによって懸念される若年者の消費者被害の観点に限定し、本意見書において具体的な施策について意見を述べるものである。

2 若年者の消費者被害の実態

(1)相談件数と相談内容
 独立行政法人国民生活センター(以下、「国民生活センター」という。)からは、若年者の消費者被害について、以下のような調査報告がなされている。
 まず、2015(平成27)年の若者の消費生活センターへの相談件数についてみると、18~19歳の相談件数の平均値が約5700件であるのに対し、20~22歳の相談件数の平均値は約8900件であり、20歳を超えたところで相談件数は約1.5倍に増加する。

 また既支払金額の平均値も、18~19歳は男性が約15万円、女性が約12万円だったのに対し、20~22歳では男性が約29万円、女性が約17万円となり大幅に増加する。(*3)
 2010(平成22)~2015(平成27)年の販売購入形態をみると、18~22歳のいずれの年齢でも、通信販売、店舗販売、訪問販売、電話勧誘販売、マルチ取引が上位にある。

 このうち、2014(平成26)年のマルチ取引の全年齢の総相談件数は1万1828件であるが、その中で20 歳未満が占める割合はわずか1.6%なのに対し、20歳代が占める割合は32.4%と大幅に増加する。
 2014(平成26)年の商品・役務別相談件数をみると、20歳代になると、男性では、サラ金・フリーローンが新たに4位に登場し、四輪自動車も新たに6位に登場するのが目立つ。女性では、エステティックサービスが20歳未満では15位だったのが20歳代では2位になり、サラ金・フリーローンが新たに7位に登場するのが目立つ。
 このように、成人になると消費者トラブルに巻き込まれる件数が大幅に増加していること、契約対象の商品や役務が高額化し、それを借金で購入するというケースが多数あることが窺がわれる。

(2)具体的な相談事例
 具体的な相談事例としては、以下のようなものがみられる。
 ①エステで、20歳になってから契約したことにされた事例
 友人に誘われてエステの無料体験をした。体験後、エステの契約を勧められ、断れずに契約した。翌月に20歳になると伝えたところ、「未成年契約の場合は親の同意が必要なため、日付は後日入れる」と言われ、日付が未記入の契約書が作成された。36回払い(合計約23万円)でクレジット契約をした。その後、2回目の施術を受けた際に、契約書に誕生日の翌日の日付を入れるよう言われ記入した。
 ②投資用教材を契約する際、消費者金融で借金を勧められた事例
 友人から突然電話があり「すごい人に会ってほしい」と言われ、カフェで会うことになった。友人から、日経225先物についての投資用教材ソフトがあることや、その教材のすばらしさについて説明を受けた後、高級ブランド品を身につけたA氏がやってきて、「うまくいっている」と言われた。翌日教材を契約することになっていたが、不安になり、友人に契約するのをやめたいと話したところ、「何が不安なのか。一緒にやろう」と説得され、翌日契約した。代金58万円は消費者金融で借りるよう言われ、友人が「フリーターで月収16万円と話すように」と消費者金融での借り方を教えてくれた。また、証券会社で取引口座を開設するために「未上場会社の役員」と記載するよう言われて言われた通り記載した。

3 成年年齢の18歳への引き下げの問題点

(1)民法の「未成年者取消権」の機能
 上記のように、成人になると消費者トラブルに巻き込まれる件数及び被害額が大幅に増加するのは、未成年者が行った親権者の同意がない契約は取り消すことができるのに対し、成人になるとそのような保護が無くなることが最大の原因だと考えられる。また、若年者は社会的経験が乏しいため、よく考えずに契約を締結してしまったり、急かされて契約をしてしまうという事例が多く、人間関係を利用されて断れない状況で契約させられる被害も少なくない。
 それにもかかわらず、民法の成年年齢が18歳に引き下げられると、18歳、19歳は「未成年者取消権」を失ってしまうことになる。
 「未成年者取消権」は未成年者の行為能力について定めるもので、あらゆる契約にあてはまるが、年齢が20歳に達していないという画一的な基準で契約を取り消せるため、実際には若者が消費者トラブルに遭った場面での強力な被害救済手段として機能している。
 また、取消の効力のために、未成年者は事業者のターゲットにされないという意味で予防策としても大きな機能を果たしている。事業者は、手間をかけて契約をさせても、未成年者という理由だけで後から取り消されかねないので、未成年者への勧誘をそもそも行わないのである。
 このように未成年者は「未成年者取消権」によって手厚く保護されてきたが、18歳、19歳の若者がこれを失えば、事業者にターゲットにされ、消費者トラブルに巻き込まれることは必至である。このことは、前述したように、20歳になった時点での消費者被害が一気に増加することからも明らかである。
(2)18歳に引き下げることの問題点
 ところで、成年年齢を18歳に引き下げることは、単に被害を受ける年齢が20歳から2歳下がることを意味しない。18歳の人生における位置づけを考慮する必要がある。
 18歳は高校3年生在学中に達する年齢であり、高校3年の4月から誕生日を迎える生徒が次々と成年になるのであって、高校3年生の教室には成年と未成年が入り交じり混乱が生じ、成年に達した生徒はこの段階で事業者のターゲットにされる。また、高校卒業時には18歳であり、必ず成人ということになる。進学・就職・上京・転居といった生活面での大きな転機を迎え、社会との接触も格段に増える時期に「未成年者取消権」を失っているとすれば、悪質事業者の格好のターゲットになるのである。
 このような実態を踏まえずに成年年齢を単純に18歳に引き下げることは、消費者被害を蔓延させることになり極めて危険であると言わざるを得ない。

4 引き下げ自体が時期尚早であること

(1)以上のとおり、成年年齢の18歳への引き下げは、18歳、19歳の若年者が未成年者取消権を失うという点からしても、多くの問題を抱えていることが明らかである。
 だからこそ、前記の法制審議会の最終報告書は「消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である。」とし、「関係施策の効果等の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識」を重視し、それらを条件としている。
 ところが、現状では施策は全く実現されておらず、国民への浸透もほとんどない状況である。
(2)前記の法務省が実施したパブリックコメントでも、施行方法や施行時期の問いに対して、そもそも引き下げに反対する意見が多数を占めた。 (*4)
 また、当会で2016(平成28)年11月に実施した「若者の消費者被害の実態と対策を考えるワークショップ」では、若年者・学生、高校教員・消費生活相談員、消費者教育に携わる者らがグループになって議論をしてもらったところ、若年者が契約についての知識が欠如していることやネットの情報を鵜呑みにすることなどの若年者の特徴が語られ、成年年齢を引き下げることで生じる問題点が浮かび上がってきた。 (*5)
(3)このような状況からすれば、若年者の消費者被害の観点だけからしても成年年齢引き下げは未だ時期尚早であり、そもそも法案が上程されるべき時期ではないことが明らかである。

5 施策の具体的な内容について

 そして、若年者の消費者被害の救済と予防の観点に絞っても、少なくとも次のような施策の実施とその結果の検証が必要不可欠であり、施策の効果が十分に発揮され、それが国民の意識として現れ、引き下げへの国民のコンセンサスが得られない限り民法の成年年齢の引き下げには反対である。
(1)まず、従来の「未成年者取消権」に匹敵するような消費者保護の民事ルール規定の創設が必須である。
 これについては、消費者契約法を改正して、知識や経験不足、判断力不足等の合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させるという「つけ込み型不当勧誘」について取消権を創設することが考えられる。
 また、特定商取引法が定める取引類型(訪問販売、電話勧誘販売、通信販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入)については、上記のように特にトラブルが生じやすい取引であることから、同法上の民事ルール(クーリング・オフ、取消権等)に若年者保護のための特則を創設することも考えられる。
(2)特定商取引法で定める取引類型は、若年者に対する勧誘禁止や調査義務も含め、厳しい事業者規制を設けるべきである。
 なお、実際に事業者が違反した場合の行政処分が積極的に行われる仕組みの構築も必要である。
(3)若年者が、収入や経済力に不相応な高額の契約をしてしまわないように、クレジット契約あるいは貸金についての資力要件を厳格化し、審査方法も厳密に行うという制度整備をすべきである。例えば、収入額の確認について自己申告ではなく書面を徴求したり、資力審査の免除や軽減をしないことが考えられる。
(4)消費者教育の充実・強化に向けて抜本的な改革が必要である。
 消費者教育については2012(平成24)年12月に消費者教育推進法が施行されているものの、未だ、学校での時間数は少なく、十分な授業を行える力量の教員も多くないのが実態であり、抜本的な改革が必要である。
 具体的には、授業時間数の増加、幼少期からの統一的なプログラムの策定、消費者教育が可能な教員養成システムの構築、実践的な教材作成などが必須であり、教科横断的な教育プログラムも考えられるべきである。
 また、内容としては参加型や体験型など消費者被害や救済方法を実感できるような授業や、消費生活センターなどと連携して新しい被害に対応できるような授業も求められる。
 更に大学生、専門学校生、若年者の就労者への消費者教育の機会提供も十分に行われるべきである。
 以上のとおり、消費者教育の充実・強化は急務であるが、これは成年年齢の引下げの有無にかかわらず必要なのであって、引下げはその効果が十分に確認された後に行われるべきである。
(5)その他、若年者の被害の救済を容易にするため、被害窓口の充実や若年者への被害救済方法の周知も重要である。

6 施策の対象となる「若年者」の範囲について

 なお、当意見書は、成年年齢を18歳に引き下げる動きが急であることを受けたものであるが、前記の若年者の消費者被害の実態からすれば、施策の対象は18、19歳だけに留める必要は無い。むしろ、一般的に大学を卒業し就職して収入を得るようになる満22歳までの者については、消費者被害の救済・防止という観点から一定の施策がなされるべきであり、施策の対象となる「若年者」の範囲については「満18歳から満22歳までの者」とすることも検討すべきである。

注釈

*1 法制審議会意見(平成21年10月28日・法制審議会第160回会議)「民法の成年年齢の引き下げについての意見」 

*2 http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/seinen/index.html
報告書は、http://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2017/doc/20170110_seinen_houkoku1.pdf

*3 「成人になると巻き込まれやすくなる消費者トラブル ―きっぱり断ることも勇気!-」(平成28年10月27日 国民生活センター) 

*4 https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080150&Mode=2

*5 http://www.toben.or.jp/know/iinkai/syouhisya/news/1110.html

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