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生活保護行政に関する談話 ~ 2008年6月26日東京地方裁判所判決に関連して ~

2008年06月30日

東京弁護士会 会長 山本 剛嗣

本年6月26日、東京地方裁判所は、都内に在住する70歳以上の生活保護受給者が、その居住する自治体に対して、生活保護の老齢加算の廃止に伴う保護変更決定処分の取消を求めた訴訟において、原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。

 そもそも生活保護は、生活に困窮するすべての国民に対し、必要な保護を行い、健康で文化的な生活水準を維持することができる最低限度の生活を保障するものであり、憲法25条を具体化するものである。

 しかしながら、国は2003年から生活保護制度の見直しを開始し、2004年度から老齢加算を廃止し、また母子加算を削減・廃止するなど生活保護基準の引き下げが続いている。2007年には、生活扶助基準の引き下げも検討されたが、広範な市民の声や日本弁護士連合会及び当会を始めとする各地の弁護士会からも拙速な引き下げへの懸念が示され、2008年度の基準引き下げは見送られた。しかしながら、2008年4月には通院移送費を原則不支給とする厚生労働省社会・援護局長通知が出されるなど、生活保護の切り下げの傾向は続いている。

 生活保護の基準は、最低賃金を始め、医療・福祉・税金などの多様な施策の適用基準にも連動しており、これを引き下げることは、低所得者層の生活に甚大な影響を与え、格差と貧困を一層拡大させることになる。

 日本弁護士連合会は2007年12月4日、生活保護基準が国民の生存権保障の水準を決する極めて重要なものであることから、これを安易かつ拙速に切り下げることには強く反対し、当会も2007年11月19日付「拙速な生活保護基準の引き下げに反対する声明」において、わが国の生活保護の捕捉率が極めて低く、生活保護基準以下の収入で生活する世帯が多数存在する中で、生活保護基準を引き下げれば低所得者層の生活に甚大な影響を与えることについての危惧を表明した。

 今般の東京地方裁判所の判決は、行政による生活保護基準切り下げの傾向を容認するものであることから、今後貧困と格差の急激な拡大が強く憂慮されるところである。

 当会は、憲法25条の生存権保障の趣旨に照らし、引き続き生活保護基準の切り下げに反対するとともに、真に生存権を実現するために会を挙げて努力する所存である。