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裁判員裁判無罪判決に対する高裁破棄自判に関する会長声明

2011年04月06日

東京弁護士会 会長 竹之内 明

  3月30日、東京高等裁判所は、覚せい剤取締法(営利目的輸入)等違反被告控訴事件について,「一審は証拠の評価を誤り、事実を誤認した」として逆転有罪判決(懲役10年、罰金600万円)を言い渡した。弁護側は,即日,上告した。
  第一審は,千葉地方裁判所にて,公訴事実につき合理的疑いがあることを理由に,裁判員裁判での全国で初めての全面無罪判決であった。
  そもそも、裁判員裁判を導入した目的は、刑事裁判における事実認定と、有罪の場合の量刑判断に、市民感覚を反映することにある。
  この点、平成19年度司法研究(最高裁判所司法研修所編)は、控訴審の在り方について,「例えば、客観的な証拠により認められる事実を見落とすなど、経験則や論理法則上、あり得ない結論だった場合などを除いて、基本的に一審の判断を尊重すべき」という指針を示している。
  東京高裁判決は、裁判員を含めた裁判体が市民感覚を反映して下した判断に対して,特段の新しい証拠,新しい事実がないにも関わらず,三人の職業裁判官の判断により正反対の結論を出したものであり,裁判員裁判の制度趣旨を著しく逸脱するものである。
  しかも、同高裁が、審理を地裁に差し戻すのではなく自ら量刑まで判断したことは,一審が無罪判決であったことにより,量刑について一度も裁判員裁判の判断を受けていないという結果を生じさせ,不当である。
  当会としては、今後、同高裁判決に対する最高裁判所の判断に注目するとともに、検察官上訴制度や控訴審のあり方など制度上及び運用上の様々な問題点につき、裁判員制度を始め,刑事司法の改善に向けて検証を続けていく所存である。