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LGBT理解増進法案に関する会長声明

2021年06月10日

東京弁護士会 会長 矢吹 公敏

現在、「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」(「LGBT理解増進法案」)が各政党において検討されているが、未だ国会には法案として提出されていない。報道によると、その理由は、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないと言う文言を追加することについて、自民党内から「差別の内容がわからない」「訴訟が多発する」などとの反論が出た結果であるとのことである。同党の会合では「道徳的にLGBTは認められない」「LGBTは種の保存に背く」などの発言があったとも報道されている。この法案をめぐっては、野党が提出したLGBT差別解消法案と自民党のLGBT理解増進法案の条文について調整が試みられてきたが、結局調整ができない状況である。
人が個人の尊厳をもち、権利において平等であることは、日本国憲法においても確認されているものであって、性的指向や性自認による差別が許されないことは当然のことである。
国連人権理事会における普遍的定期的審査(2008年、2012年、2017年)においても、性的指向及び性自認に基づく差別を撤廃するための措置を講じることが日本に対して勧告されている。また、経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、LGBTに関する法整備状況を比べると、日本は35カ国中34位ということである。
我が国の現状も、未だ状況が改善されておらず、速やかに、性的指向や性自認に関わらず人権を享有することや平等であることを明示する法律が制定されるべきである。
当会は、2019年4月から、全国の弁護士会で初めて、同性パートナーをもつ職員について、慶弔休暇、育児休暇、介護休暇等の休暇制度や扶養家族手当、住宅手当、慶弔金等の各種手当に関する規定が適用されるようにし、新聞等各メディアで報道された。2020年1月から、同性パートナーをもつ会員について、異性パートナーの場合と同様、会費免除・会務活動の免除・弔慰金・災害補償等の福利厚生を受けることができるように規則改正等を行った。また、毎月2回、市民向けに「セクシュアル・マイノリティ無料電話相談」を行っている。
さらに、当会は、刑事収容施設におけるトランスジェンダー女性の処遇に関する人権救済勧告(2016年)において、性自認に沿った取扱いを求める権利は憲法第13条の個人の尊厳から導かれる人権として認められるべきであることを明らかにし、また、同性カップルが婚姻できるための民法改正を求める意見書(2021年)を発出し、性的指向により異なる取扱いをすることは、特別の強い正当化事由がない限り禁止されるべきとの意見を明らかにしてきた。
当会は、このような活動を踏まえて、今国会中にLGBT理解増進法案が両院において可決され、法律として成立することを強く望むものである。また、当会は、法律制定後も、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の策定と実施のために、国、地方公共団体、事業主、及び学校設置者(法案第4条から7条)に協力し、性的指向や性自認による差別の解消をさらに推し進めていく所存である。

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