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被害者参加制度に反対する会長声明

2007年03月22日

東京弁護士会 会長 吉岡 桂輔

 本年3月13日,被害者参加制度の新設を含む「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され,国会に上程された。
新制度は,裁判員裁判の対象事件や業務上過失致死傷等の事件について,被害者の公判への出席,証人尋問,被告人質問,求刑を含む意見陳述等を創設する制度である。
犯罪被害者および遺族(以下「犯罪被害者等」という)の救済を進めるためには、犯罪被害者等に対する精神的・経済的な支援体制を構築し,充実させることが必要であることは論を待たない。今回の立法の動きは,十分な支援制度を構築することなく,犯罪被害者等の刑事裁判参加という新制度のみで対応しようとするものである。
しかも,新制度は,以下のとおり基本的な点において問題が多くかつ法制審議会での審議も不十分であり、安易な導入には反対である。
第1に,刑事法廷を復讐の場としてはならない。新制度は,犯罪被害者等に「被害者参加人」という法的地位を与えた上で,検察官の活動から独立した訴訟活動を認めるもので,現行の刑事訴訟における当事者主義構造を変容させ,刑事法廷を個人的な復讐の場とし,同時に被告人・弁護人の防御の負担を過大なものとするおそれがある。
第2に,適正手続の保障を傷つけてはならない。犯罪被害者の落ち度などの重要な争点について,結果が重大であればあるほど,被告人は主張することが心理的に困難な状況に置かれる。検察官の厳しい追及に加えて,犯罪被害者等から直接質問されるようになれば,被告人は沈黙せざるを得なくなり,防御権を十全に行使できなくなり,適正手続に反し,その結果,真実発見が歪められるおそれがある。
第3に,厳格な証拠法則等の刑事裁判の基本原則を空洞化させてはならない。刑事裁判手続は,伝聞証拠を排除するなどの厳格な証拠法則に基づいて進行されることを予定しているにもかかわらず,犯罪被害者等による意見や質問が過度に重視されて,事実認定や量刑に上記の刑事訴訟の基本原則と矛盾した影響を与えるおそれがある。特に,2009年から施行される裁判員制度においては,裁判員に対し裁判官以上に事実認定および量刑判断において適正手続に反する影響を与えるおそれがある。
さらに,犯罪被害者等の中にも,新制度が犯罪被害者等に新たな負担を課すことになる等の理由により新制度の導入には慎重な立場があり,新制度について,国民各層に幅広い不安と疑義が生じている。
将来に禍根を残さないためにも,幅広く犯罪被害者等の声に耳を傾けるとともに,広く国民の議論を尽くすべきである。そこで,上記の被害者参加制度に反対するとともに,その法案内容について国会において慎重に審議することを求めるため,本声明を発する。