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憲法改正手続法の施行延期を求める会長声明

2010年04月16日

東京弁護士会 会長 若旅 一夫

 憲法改正手続法は、2007年5月18日に公布され、2010年5月18日施行予定とされており、施行期日が目前に迫っている。

憲法は、国民の基本的人権を保障するために権力を制限する根本規範であり、改正には憲法改正権者である国民の意思が的確に反映されなければならない。

しかしながら、当会がかねて指摘しているように、憲法改正手続法は、(1)最低投票率の規定がないため、少数の投票者の意思により憲法改正が行われるおそれがあること、(2)改正案の発議について、「内容において関連する事項ごと」に区分して行うとされているが、どのような場合に内容において関連するのかの基準が曖昧であり、国民の意思が正確に反映される投票方法となっていないこと、(3)公務員及び教育者の地位利用に対する規制について、罰則の定めはないものの運動自体を禁止しており、国民が広く憲法改正の議論をすることについて萎縮効果を与えること、(4)改正案の発議から投票まで60日以上180日以内とされているが、憲法改正という重大な問題について国民が十分に情報を得て議論を尽くすには短かすぎること、(5)メディアの報道や有料広告のあり方についても十分な審議が尽くされていないこと等、多くの重大な問題点をはらんでいる。同法が十分な審議を経ていない不十分なものであることは、法案成立の際に、参議院憲法改正に関する調査特別委員会において18項目にも亘る附帯決議がなされたことからも明らかである。附帯決議においては、特に、「成年年齢」、「最低投票率」、「テレビ・ラジオの有料広告規制」の3点については、「本法施行までに必要な検討を加えること」とされている。

そこで、当会は、国会に対し、施行までの3年の間に、附帯決議がなされた事項にとどまらず、憲法改正権者は主権者である国民であるという視点にたち、真に国民の意思を反映した国民投票ができるような法律にすべく抜本的な見直しがなされることを強く要請したが、いまだに、ほとんど検討されていない。

また、同法は、附則において、「この法律が施行されるまでの間に」、投票年齢の問題に関しては、「年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とし、公務員の政治的行為に対する制限に関しても、「公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」としているが(附則3条、11条)、これらのいずれについても、いまだ必要な措置は講じられていない。

同法に含まれるこれらの問題点について、当会が指摘し、また、附則および附帯決議が求めている検討がほとんどなされておらず、必要な法制上の措置が講じられていない現状では、同法の施行期日を定める附則1条を改正して、同法の施行は延期されるべきである。