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ストックオプション制度の導入に関する商法改正法案の立法手続についての声明

1997年05月30日

東京弁護士会 会長 堀野 紀

 1997年5月16日、商法改正法および株式消却に関する商法の特例法が成立し、自社株の取得に対する規制が緩和された。
同年6月1日から施行されるこれらの改正法によって、我が国においても、企業の役員や従業員に対する新しい報酬制度である『ストックオプション(将来の一定の期間内に、あらかじめ決めた価格で自社株式を買い取れる権利)制度』が解禁となる。
この商法改正は、議員立法により成立したものであるが、衆議院で可決承認された際、商法学者の圧倒的多数を賛同者とする「開かれた商法改正手続を求める商法学者」グループが、「立法のプロセスが不透明・秘密主義的であり、法的問題の検討が十分になされないままの改正である」とする批判声明を発表し、他方、立法に積極的に携った国会議員の一部からは、「法制審議会における議論こそ密室性を問われるべきである」と反論がなされ、我が国の立法手続のあり方について一石を投じた。
民主主義の基本は、ディスクロージャー(情報公開)とデュープロセス(適正手続)である。基本法の立法あるいは改正の過程にあっては、情報の開示と、国民各層の意見を反映させる透明性の高い手続が特に必要とされる。
法制審議会は、法務大臣の諮問機関ではあるが、大学、弁護士会、経済団体、労働団体等、広く各界への意見照会をし、それらの意見を踏まえた審議がなされており、基本法の改正はこのように外部からの意見を十分聴取した上で法案の策定がなされてきた。
しかしながら、審議会行政は、なお不透明であると批判を受けており、法制審議会における法案の審議にあっても、その公開度を高め、手続の透明性と民主性を確保し、そしてまた国民と時代が求めるスピードにも応える審議のあり方を追求すべきであり、その点において現状については、批判されるべき面もある。
ところで、議会制民主主義のもとにおいて、近時、情報公開法の制定などをはじめとして、議員立法の重要性を国民は意識しつつある。

しかし、その立法手続においても、広く事前に情報公開がなされているか、民意を十分に反映させる手続的保障はあるか、法的問題点を十分に検討し尽くしているか、透明性の高い手続において法案が確定したか、国会審議は国民に開かれているというが実質審議がなされているか、等について、国会としては国民の納得が得られる手続過程を示さなければならず、そうでなければ、主権者である国民の信頼を得ることはできない。
今回のストックオプション導入に関する議員立法が、経済界のニーズに応えようとするに急ぐあまり、国民の意見を十分に反映させるという観点での立法過程の透明性に欠けたものであった、との印象を学界、法曹界など多方面に対して与えたことは遺憾である。
立法についてのアカウンタビリティー(説明責任)の重要性を認識し、国会、政府、学界が、建設的な意見交換と相互批判のもとに立法手続の改革・改善を実行し、活動していくことを強く求めるものである。