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行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律に基づく「共通番号制度」の抜本的再検討を求める会長声明

2013年06月13日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 本年5月24日、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆる「マイナンバー法」)が成立した。今後、2016年1月からの「共通番号」制度の運用開始に向けた準備が進められてゆくことになるが、当会は、本年5月9日付会長声明で指摘した問題点を踏まえ、改めて以下のとおり、本制度の抜本的再検討を求めるものである。

2 「共通番号」制度は、プライバシー侵害の危険性が著しく高いことに鑑み、分野別番号制を基礎とした制度とするよう再検討すべきである。
 「マイナンバー法」に基づく「共通番号」制度は、生涯不変の一つの番号(共通番号)を、本人を特定する背番号(納税者番号、社会保障番号)として、行政と民間の両分野において広く利用する制度である。しかも、同法は、「利便性向上」を目指して、民間分野における共通番号の利用・活用の拡大や、共通番号記載の個人番号カードの身分証明書としての利用・活用の拡大という方向性を打ち出している。そのため、事実上、だれもが他者の共通番号を知ることができる上、この番号をマスターキーとして、様々な個人データを、正確に名寄せ・データマッチング(統合)できてしまうことになる。
したがって、共通番号付きの個人データが漏洩する危険性、個人データが名寄せ等され深刻で取り返しのつかないプライバシー侵害がもたらされる危険性が著しく高まる。また、「共通番号」制度は、「なりすまし」の手段として利用され易くなり、甚大な財産的損害を発生させる危険性も高める。
米国では、社会保障番号(SSN)が共通番号化してしまったため、「なりすまし」の手段に利用されることによる被害などが深刻な社会問題となり、現在、莫大な費用と労力をかけて分野別番号化を進めようとしている。また、比較的新しく、2001年住民登録法の改正により国民に統一的な番号(国民ID)を割り振ったオーストリアでは、各行政機関においては暗号を用いた分野別番号制(セクトラル方式)を採用することで、分野を超えたデータ主体の同一性の確保という利便性と違法な名寄せの危険性の防止との調和を図っている。
このように、世界の趨勢は共通番号から分野別番号へと流れているのであり、わが国において、これから番号制度創設を目指すならば、旧態依然たる「共通番号」制を用いたシステムではなく、分野別番号制を基本としたシステムを構築すべく抜本的な再検討を行うべきである。

3 そもそも、政府は、「共通番号」制導入にあたり、分野を超えたデータの名寄せ・突合を必要とする具体的理由や制度創設の費用対効果について明確にすべきである。
「マイナンバー法」案の国会審議において、「共通番号」制を用いて、分野を超えた個人データの効率的な名寄せ・突合を必要とする具体的理由や、制度を創設した場合の費用対効果について、全くといっていいほど明らかにされなかった。政府説明によっても基本的なシステム構築だけで約3000億円もの巨大な税金が投入されるシステムだというのに、その必要性や費用対効果が未だに明らかにされないというのは異常な事態である。
政府は、期限を切って、すみやかにその具体的必要性を各現場の業務に即して洗い出した上、その効率化に必要なシステムの構築に要する費用及びそれによる効果を明らかにして、国民のチェックを求めるべきである。そして、必要性が高くない場合や、費用が多額に上るのに効果が低い場合は、このようなシステム構築自体を取りやめるべきである。