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会長談話(寺西裁判官の新聞投書をめぐって)

1998年01月19日

東京弁護士会 会長 堀野 紀

 先日、朝日新聞に投稿が掲載された寺西和史裁判官に対し、所属裁判所所長からその表現の一部に適切さを欠く箇所があったとして、文書による注意処分が行われた。
ところで、処分の対象となった投稿の内容は裁判官の令状審査の実情を指摘するものであった。我々弁護士は、従前から必要性ないし相当性を欠く逮捕状、勾留状の発令を多々経験しており、弁護士会はつとに令状実務の問題点を指摘してきたところである。1996年度の司法統計年報によれば、令状事件総数に占める却下・取下(撤回)の件数の比率は、逮捕状において約0.36パーセント、勾留状において約0.33パーセント、差押・捜索・検証許可状において約1.24パーセントに過ぎない。
従って、この点についての寺西裁判官の問題提起の視点は正しいというべきである。
いうまでもなく、司法に携わる者に司法実務についての意見を発表表明する機会が保障されるべきことは当然であり、裁判官もまた裁判所内部での意見交換にとどまらず、外部に対し問題提起し市民の批判を仰ぐことは許されるべきことである。
その意味において、今回の所長の措置によって、今後裁判官が司法実務上の問題について意見を発表すること自体消極的になるようなことがあってはならない。
東京弁護士会としても、今後とも裁判官の市民的自由が保障されているかどうかについて重大な関心を持ち続けるとともに、そこで指摘された令状実務についても人権擁護に適うよう改善努力を継続するものである。