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憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の容認と国家安全保障基本法案の国会提出に反対する声明

2013年09月18日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 憲法で禁じられている集団的自衛権行使を、憲法解釈の変更によって容認しようとする動きが加速している。
安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(「安保法制懇」。座長柳井俊二元駐米大使)が年内をめどに報告書作成作業を続けている。そこでは、2008年にまとめられた「集団的自衛権行使を求める報告書」で検討された4類型(公海における米艦艇の防護、アメリカに向かう弾道ミサイルの迎撃など)に限定せず、集団的自衛権行使を全面的に容認する方向で検討作業が行われていると伝えられている。政府高官や安保法制懇の中心メンバーからも「必要最小限の集団的自衛権は行使できる」「多国籍軍に自衛隊が参加出来る」などの発言が続いている。さらに、安倍首相は、本年8月、内閣法制局長官を更迭し、第1次安保法制懇の柳井座長の下で報告書作成作業を支えた小松一郎駐仏大使を後任の長官に任命した。これは、集団的自衛権行使は憲法上許されないとの歴代政府の確立した憲法解釈を変更する布石と言われている。
しかし、永らく確立された憲法解釈を時の内閣の安保政策によって変えることは、政府や立法府を憲法による制約の下に置こうとする立憲主義に反し、到底容認出来ない。

2 しかも、集団的自衛権の行使容認の動きは、憲法解釈の変更にとどまらない。与党自由民主党は、2012年7月に総務会で決定した国家安全保障基本法案を来年1月の通常国会に提出すべく準備を進めている。同法案は歴代政府により確立された憲法解釈に抵触するおそれがあることから、当初は議員立法を予定していたようであるが、現在、安倍首相は政府提出法案として国会上程を目指していると伝えられる。前述の内閣法制局長官の更迭を契機とする憲法解釈の変更の動きは、同法案成立に向けた布石と考えられる。
しかしながら、同法案は、①「我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態」に自衛権を行使することを明記(10条)して真っ正面から集団的自衛権行使を容認しているだけでなく、②「教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払う」べきことを定めて、国家安全保障を国の行政、国民生活上の最優先事項と位置づけ(3条)、③地方公共団体はもとより、国民に国家安全保障施策に協力すべき責務を課して国民を総動員することも定めている(4条)。さらに、④我が国の防衛とともに治安維持(「公共の秩序の維持」)を自衛隊の任務と定め(8条)、国連の安全保障措置等による国際活動への参加(多国籍軍への参加を含む)への道を開き(11条)、⑤平和憲法の精神に立脚する国家の基本政策であった武器輸出禁止三原則を捨てて武器輸出を認めている(12条)。
集団的自衛権行使の公然たる容認と、自衛隊の海外活動任務及び治安維持任務の規定は、昨年4月に発表された自民党憲法改正草案の9条の2と実質的に同じであり、このとおり国家安全保障基本法が制定されれば、事実上、憲法9条が改正されたのと変わらない事態を招来する。これは、下位の法律で憲法を改正する「法の下克上」であって、到底許されない。

3 加えて、国家安全保障基本法案は、これを実行すべく多くの下位法の制定を予定している。秋に国会提出が予定されている特定秘密の保護に関する法律の他、国家安全保障会議設置法(日本版NSC設置法案。本年6月7日法案提出)、国際平和協力法(海外派遣の一般法)、自衛隊法改正(集団的自衛出動任務規定、武器使用権限)、集団自衛事態法の制定などである。これらが次々と制定されることになれば、国の施策の全面で国家安全保障が最優先されることとなり、国民の権利、自由が脅かされる事態となることが強く危惧される。

4 よって、当会は、立憲主義の見地から、集団的自衛権行使を禁じる確立された憲法の解釈を政府の都合で強引に変更してこれを容認すること、及び一般法の制定という手法で憲法の制約を破ろうとする国家安全保障基本法案の国会提出に強く反対する。