東京弁護士会

国家戦略特区構想による雇用に関する規制の緩和に反対する会長声明

2013年10月16日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

 本年9月20日に開催された産業競争力会議課題別会合において、国家戦略特区ワーキンググループは、解雇、労働時間、有期労働契約の規制を緩和した雇用に関する国家戦略特区構想(以下「構想」という)を発表し、安倍首相が厚生労働省に、その具体化のための検討を指示した。構想の内容を盛り込んだ「国家戦略特区法案」は、本年11月上旬の閣議決定を経て今秋の臨時国会に提出される予定とされている。
構想の内容が記載された「国家戦略特区WG 規制改革提案に関する現時点での検討状況」と題する資料によれば、具体的には、特区内において、「開業後5年以内の企業の事業所」については、次の②、③の特例を、「外国人比率が30%以上の事業所」に対しては、以下の①、②、③の特例を認めるとしている。

① 労働契約法18条が規定する5年を超えた有期労働契約について、事前に労働者に無期転換権を放棄することを認める
② 労働契約法第16条の特例規定として「特区内で定めるガイドラインに適合する契約条項に基づく解雇は有効となる」旨を規定し、契約締結時に、解雇の要件・手続を契約条項で明確化し、契約条項が裁判規範となることを法定する
③ 一定の要件などを満たす労働者が希望する場合、労働時間・休日・深夜労働の規制を外すことを認める

しかし、労働契約法第16条が規定する解雇権濫用法理は、就業規則・労働契約などの当事者自治による解雇規制の限界を補うために、多数の裁判例の積み重ねによって生まれたものである。その意義は、高知放送事件最高裁判決(最二判昭和52年1月31日)が「解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」と述べるように、個々の事案ごとに諸般の事情を総合勘案して解雇の正当事由の有無を判断することにより、労使間の利益調整、雇用社会の安定を図ることにある。
ところが、構想によれば、特区においては、労働契約に規定されたガイドラインに適合する解雇事由に該当しさえすれば、当該解雇の合理性や社会通念上の相当性を検討することなく解雇有効との判断が下されることになる。これは、特区においては、解雇権濫用法理そのものを排除することに他ならず、社会的相当性を欠く無謀な解雇を許し、雇用社会の混乱や不安定をもたらすものである。
また、非正規労働が拡大して格差と貧困が深刻化し、その一方で正社員の長時間労働が蔓延して過労死、過労自殺が多発している我が国の労働環境に鑑みれば、有期雇用労働者の権利向上のために労働契約法において新設された無期転換権の規定や、労働者の生命・健康の維持のために労働基準法により規定されている時間規制を、特区の設置によってこれ以上緩和すべきでない。
そもそも、労働契約法、労働基準法で定められた無期転換権、解雇権濫用法理、時間規制はいずれも、労働条件に関する基準は法律で定めることとした憲法27条2項を受けて具体化された規定であり、労働者の生存権を保障するための最低限の基本ルールである。このような労働条件の基本ルールを安易に緩和すれば、労働者の健康で文化的な生活を破壊することになりかねない。今回の特例措置の対象となる企業、労働者は限定されているが、対象者が少数であるからこのような規制緩和が許されるものではないし、一度規制が緩和されれば今後対象が拡大していく危険性があるため、例外は認めるべきでない。
しかも、国民に等しく保障されるべき労働条件の基本ルールに地域・企業による差異を設けることは、憲法14条が保障する法の下の平等にも抵触するおそれがある。
さらに、産業競争力会議は、企業経営者と研究者のみで構成されており、労働者を代表する者が含まれていない。このような偏った構成の産業競争力会議だけで雇用に関する規制の緩和を議論し決することは不公正であり、ILO第144号条約が労働立法を行う際の原則として推奨している政府・労働者・使用者の三者構成主義にも反する。
よって、当会は、国家戦略特区構想による雇用に関する規制の緩和に反対の意思を表明する。

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