東京弁護士会

特定秘密保護法案の閣議決定に抗議する会長声明

2013年10月28日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 10月25日、政府は、特定秘密保護法案(以下「法案」という)を閣議決定し、衆議院に提出した。

2 当会はこれまで複数回にわたり政府が2008年4月以来検討してきた秘密保全法制に反対する意見を表明してきた。
その理由は、政府が立法化を画策してきた秘密保全法制が、(1)主権者である国民による政府監視と主権行使のために最も重要な、①国の安全(防衛)、②外交、③公共の安全・秩序の維持に関する広範な情報について、政府(行政機関の長)が恣意的に「特別秘密」に指定できるとしていること、(2)「特別秘密」の秘匿のため、その取得・漏えいのみならず過失犯、共謀、独立教唆、煽動という広範な行為について処罰できるとしていること 、(3)それによって民主政治の根幹(国民主権)が掘り崩されるとともに、国民の知る権利、表現の自由、取材・報道の自由、プライバシー権などの基本的人権が侵害されることなどであった。

3 法案は、基本的に秘密保全法制を踏襲するものであり、以下のとおり同法制と同様あるいはそれ以上に国民主権・民主主義、基本的人権そして平和主義の理念を侵害するものである。

(1) 法案では、特定秘密の対象が抽象的で曖昧な上に、特定秘密の指定についてチェックする体制や方策を全く講じていないから、行政機関の長(政府)は秘密にしたい情報を恣意的な特定秘密の指定が十分可能である。
加えて、法案は特定秘密指定の有効期間を5年と定めているが(法案4条1項)、その更新回数に制限はない(同条2項)。また、指定の期間が30年を超える場合は内閣の承認を要する(同条3項)としているが、行政機関の長の判断は経験則上内閣の意向にほかならず、内閣の承認は指定延長の歯止めとはなりえない。つまり、指定された特定秘密は永久に国民にとっては秘密なのである。

(2) 他方、法案は主権者である国民が特定秘密について知る権利を行使するための行為に重罰を科し、主権者である国民によるチェックも否定する。
特定秘密取扱業務従事者による特定秘密の故意の漏洩(法案22条1項。内部告発も当然のことながら含まれる)、特定取得行為(法案23条。未遂処罰もあり、不正・不当行為も処罰対象で国民が特定秘密に接近すること自体を処罰しようとするものである)については、最長懲役10年で処罰されることになるが、これは現在の自衛隊法の5年以下の2倍、国家公務員法の1年以下の10倍に相当する重罰である。しかも、これまでの秘密漏えい事案の刑事事件ではそのほとんどが起訴猶予や執行猶予処分で終わっており(秘密保全法制立法化の口実とされた中国漁船の海上保安艇へ衝突映像ネット流出事件も起訴猶予である)、自衛隊法、国家公務員法など現行の秘密保護法制で十分対応可能なのである。
法案の重罰化は、国民が特別秘密に接近することを妨げるための国家による国民に対する威迫と言わざるをえない。

(3) 法案10条1号イは、国会を「その他」の提供先として位置づけ、特定秘密の国会への提供につき、他の行政機関や外国政府等への提供(法案6条~9条)に比し極めて厳格な要件を課している。すなわち、提供する場が秘密会であること、知る者の範囲を制限すること、目的外に利用されないようにすること、政令で定める措置を講じることという条件を設けた上に、行政機関の長(政府)が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき」に、「提供することができる」となっており、行政機関の長の裁量に委ねられている。したがって、国会の判断で特定秘密の内容を検討することができない。しかも、国会議員も上記(2)の処罰の対象であり、国民に提供された特定秘密や秘密会での審議状況を知らせれば処罰を受けることになるのである。
国政にかかわる事項について国民の代表である国会議員が議論し、その内容を広く国民に知らせてゆくというのが国民主権・民主主義の大原則である。特定秘密に関する議論も例外ではない。重罰をもってこれを規制する法案は議会制民主主義を根本から否定するものと言わざるをえない。

4 また、法案1条では、「高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される」ことが立法の動機の一つとされている。
とすれば、情報管理システムの適正化のための基本構造や管理ルールなどが規定されてしかるべきである。ところが、法案にはこれに関する規定が全くなく、法案は、特定秘密取扱業務従事者に関するその親族なども巻き込んだ深刻なプライバシー侵害を伴う適性評価制度の導入(法案12条)や最長10年の重罰(法案22条~24条)をもって情報漏えいに対処しようとしている。これは法案1条の目的に全く反するものであり、高度情報通信ネットワーク社会における情報漏えい防止策として全くの時代錯誤の方策である。
この事実は、適正評価制度や知る権利を行使する国民に対して重罰を科してまでも特定秘密の秘匿を貫き、日本国憲法のもとで曲がりなりにも培われてきた我が国の国民主権・民主主義、基本的人権、平和主義の理念を根本から覆そうとする法案の本質を端的に示している。

5 以上のとおりであるから、当会は本法案に強く反対する。
なお、日弁連が10月23日に発表した意見書で述べているとおり、今必要なのは、公文書管理法、情報公開法などを改正することであり、これが実行できれば特定秘密保護法を制定する必要はない。この方向での議論を深化させ、情報を適切に管理しつつ、情報の公開度を高め、国会が行政機関を実効的に監視できる法制度を実現すべきである。

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