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少年法「改正」法成立を受けての会長声明

2014年04月15日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

1 去る4月11日、国選付添人選任及び検察官関与の対象事件の範囲を拡大し、少年に対する刑事罰の上限を引き上げて厳罰化を図ることを内容とする少年法「改正」法が参議院本会議で可決成立した。
 「改正」法の内容のうち、国選付添人選任の対象事件の範囲拡大は、当会でもいち早く2004(平成16)年10月に身体拘束事件全件付添人制度(当番付添人制度)を立ち上げて、弁護士から徴収した会費で付添人報酬を賄いながら、国費化の実現を強く求めてきたものであり、いまだ対象事件が身体拘束事件全件に至っていないという問題を残すとしても、一定の前進を見たことは高く評価するものである。
 しかし、検察官関与対象事件の範囲拡大及び少年刑の厳罰化は、子どもの権利条約及び少年法の理念に反するものであることから、当会は一貫して反対してきたのであり、力及ばず「改正」に至ったことは誠に残念である。
 少年法は少年の成長発達権保障を理念とする。非行を犯すに至った少年は、その多くが、成育歴の中で、虐待、いじめ、体罰等の被害者であったり、貧困の中にあったりして、子ども期の成長発達権が十分に保障されず、そのために、心身の成長が遅れたり歪んだりして、社会適応がうまくできなくて非行に陥ってしまうという構図がある。したがって、少年の更生を図るためには、何よりも、司法手続及び処遇の各過程において、少年の成長発達権を保障し、少年の「育ち直し」の機会を保障することが必要なのである。
 ところが、検察官関与制度及び厳罰化は、以下のとおり、この理念に逆行するものである。

2(1)検察官関与制度の問題
 少年審判における検察官関与制度は、「事実認定の適正化を図る」として、2000(平成12)年に導入された。
 しかし、これは、非行を犯したとされる少年たちの実像を踏まえない空論であり、実際には、少年審判の場で糾問的な質問をすることで、少年が心を閉ざして真実を語らなくなることによって、事実認定を歪めることになりかねない危険をはらむ制度である。また、少年が心を閉ざしてしまうと、仮に審理の結果、非行事実が認定された場合にも、少年が自ら内省を深めていくことにより更生しようとする契機が失われてしまいかねない。
 しかも、少年審判は職権主義的審問構造をとっており予断排除原則や伝聞法則がないために、裁判官は、捜査官が収集した証拠を全て読み込んで少年は「有罪」であるとの心証を持って審判に臨むのであり、そこに検察官が関与することは、成人の刑事裁判以上に少年を不利な立場に立たせることになる。
 そのため、当会は、2000(平成12)年9月29日及び同年11月28日に会長声明を発出し、検察官関与制度の導入に強く反対した。

(2)厳罰化の問題
 少年刑の厳罰化については、成人の刑との均衡を図り、裁判所の裁量の幅を広げることにより、少年に対する科刑の適正化を図るものと説明されている。
 しかし、少年刑は、少年の人格の未熟さゆえに犯罪に対する責任が類型的に減少すること、可塑性を有する少年は、成人と比較して短期間の教育的処遇により大きく更生することから、成人に対する刑とは異なる独自の理念に基づいているものである。成人の刑との均衡を図るという考え方は、少年刑の独自の理念・特質を理解していないものと言わざるを得ない。
 また、少年刑務所は、少年院と異なり、教育を主たる目的とする施設ではなく、少年受刑者に対する成長発達権保障の観点は不十分である。心身の発達の途上にある少年に、重い拘禁刑を科して長期間社会から隔絶することは、社会復帰を困難にし、かえって再犯のおそれを高めることになりかねない。

3 なお、本「改正」法には、衆参両院の法務委員会において、検察官関与の必要性判断が法の趣旨に則った適正な運用がなされるよう留意する旨や、少年刑務所等における矯正処遇と社会復帰後の更生保護及び児童福祉とが継続性を持って行われ、仮釈放等の運用が一層適正に行われるよう、少年に対する支援のあり方について検討を行う旨の附帯決議がなされた。
 当会は、上記附帯決議の趣旨に則り、安易な検察官関与や少年に対する厳罰化が決してなされることのないよう、今後の「改正」法の運用を注視していく。
そして、弁護士が付添人ないし弁護人として、少年法の理念を正しく手続に反映し、また、社会復帰までの長期的な視点で少年の成長発達権を保障することができるよう、質の高い活動の担い手の育成に努める所存である。
 さらには、本「改正」法の問題点を改めて明らかにし、子どもの権利条約の理念に適合する少年司法法制のあり方について検討し、2000(平成12)年少年法「改正」以降の少年審判の刑事裁判化や少年に対する厳罰化の流れを押しとどめる努力をするのみならず、2000年「改正」を所与の前提とすることなく、あるべき少年審判や少年の刑事裁判制度を追求し、真の改正を提言していく所存である。