憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認を認めず、立憲主義を堅持する会長談話
2014年05月03日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦
日本国民はもちろん、アジア・太平洋地域の多くの人々の尊い命を犠牲にした太平洋戦争への深甚なる反省から、「政府の行為により再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意して」確定され、今年で施行67年、徹底的恒久平和主義の立場に立つ憲法がいま、最大の試練を迎えています。憲法は、第9条第1項において国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄する旨、第2項において一切の戦力の不保持と交戦権を否認する旨の徹底的な平和主義を定めています。これは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」軍事力によらずに私たちの安全と生存を保持しようと決意したことを意味します。しかし、戦後の東西冷戦という国際情勢の影響を受けて、わが国は、警察予備隊を創設、それを保安隊、さらに自衛隊へと改組して次第に防衛力を拡大、国連PKO活動などを通じて、今日、自衛隊の海外派遣が常態化するほどとなっています。ただし、その場合でも、憲法9条の縛りにより、自衛隊の海外での武力行使は厳しい制約を受け、それ故、自衛隊が海外で戦闘に加わることはなく、わが国は、自国、他国を問わず、戦闘行為による犠牲者を一人も出さずに今日に至っています。この事実と歴史こそ、憲法9条の誇るべき価値を指し示しています。
確かに、国際法上、国家が国民の命や財産を守るための自衛権を有すると解釈されていますが、政府は、(1)わが国が急迫不正の侵害を受け、(2)それを避けるために他に方法がない場合に、(3)それを排除するため最小限度の実力を行使するという個別的自衛権のみが憲法上許され、それを超えるいわゆる集団的自衛権の行使は憲法上許されないという解釈を確立し、今日まで一貫してその立場を堅持してきました。
ところが、安倍内閣は、首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」から近々出される報告書を受け、閣議決定によりこれまでの内閣法制局の解釈を一気に変更しようと考えているようです。即ち、「日本と密接な関係にある国が攻撃され」、「放置すれば日本の安全に大きな影響を及ぼす場合」に「攻撃された国からの支援要請がある」など一定の条件を満たす場合には必要最小限度の集団的自衛権行使は許されるという解釈へと憲法解釈を根本的に変えようとしています。
しかし、憲法の条文のどこを読んでも「他国が攻撃された場合に」(自国が攻撃を受けてもいないのに)、自衛権が行使できると解釈する余地などなく、「最小限」とか「限定的」などの言葉で集団的自衛権行使を一定範囲に止めることなど不可能です。結局は、このような形で集団的自衛権の行使を容認すれば、自衛隊が同盟国の要請に基づき、地球の裏側まで派遣され、同盟国の軍隊とともに武力行使を行うに至ることは明らかです。そうなれば、憲法9条は完全に空文化し、わが国が再び戦争をする国へと歩み始めることとなり、国民の人権は国防、安全保障という国策の犠牲となる可能性のあることは過去の歴史が教えてくれます。政府は、わが国を取り巻く安全保障環境が変わった、現行憲法が今の時代と情勢に合わなくなったことを理由としています。しかしながら、尖閣諸島の国有化、首相や国会議員による靖国神社参拝、河野談話の見直し等の動きを見ても、むしろ我が国自身が緊張関係を作り出している面も否定できません。
政府の活動が憲法の範囲内に制限されるのが立憲主義であるところ、政府自らが憲法による制限を破るのは、まさに憲法破壊そのものであって、立憲主義に反することは明らかです。
よって当会は、現行憲法に基づく基本的人権の擁護を使命とする法律家団体として、引き続き集団的自衛権行使容認に反対するとともに、政府に対し、憲法上許されない解釈変更を強行しないよう強く求めるものです。