接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟判決についての会長談話
2014年11月10日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦
2014年11月7日、東京地方裁判所民事39部は、当会会員が、接見交通権に対する違法な侵害がされたことを理由として国家賠償請求訴訟を提起していた訴訟において、国に金10万円を支払うことを命じる判決を言い渡した。
この事件は、2012年3月30日、当会会員が、東京拘置所において、弁護人として健康状態に異常が認められる被告人と接見をしていた際に、東京拘置所の職員により、接見室内で写真撮影をしたことを理由に、その接見及び写真撮影・録画を中断させられ、強制的に被告人との接見を中止させられたというものである。
本判決は、接見の中断措置は、具体的事情の下、未決拘禁者の逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれ、その他の刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られると述べた上、本件の中断措置はそのような事情は認められず、その違法性を認めた。また、国側が写真撮影の禁止の理由とした保安・警備上の問題や、被撮影者のプライバシー侵害などはいずれも抽象的なおそれにすぎないとして、その主張を排斥している。
しかしながら、その一方で「本件撮影行為によりAの状態を正確に記録化できることは、原告が弁護活動を行うに当たって便宜ではあるものの、必要不可欠とまではいい難く、少なくとも本件撮影行為のように、専ら証拠保全として行われた写真撮影行為は、『接見』に含まれると解することはできない。」とするなど、写真撮影行為は接見交通権の保障する「接見」に含まれ、本件撮影行為は正当な弁護活動にあたるとする原告の主張を排斥した。
そもそも接見交通権は、憲法34条が保障する被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利の中核ともいうべき刑事手続上最も重要な権利であり、接見状況の録音、写真撮影・録画は、弁護人による接見時の被疑者・被告人に関する情報の取得行為とその記録化にほかならず、その点において、被疑者・被告人の口頭での陳述を聴取り、その内容を筆記すること、あるいは弁護人が接見時に知覚した被疑者・被告人の外観上の特徴を筆記することと同じである。過去の裁判例でも「接見」は、口頭での意思連絡に限定しないとしたものがある(大阪高等裁判所平成17年1月25日判決)。本判決の判断が、あくまでも本件に関する事例判断の枠内にとどまっているとはいえ、上記の点において、極めて不当な判断を含むものである。
本判決は、本件撮影行為は、接見交通権に含まれるものとして保障されるとはいえないとしながらも、本件撮影行為を理由として接見を一時停止し又は面会を終了させることはできないとし、接見を中止させた本件措置を違法としたものであり、本判決により、刑事弁護を担う弁護士が、接見の様子を記録化し、あるいは被疑者・被告人の心身の状態を証拠化するために、接見室内で写真撮影等を行うことを躊躇するようなことがあってはならないことは当然である。
当会としては、あらためて、弁護人が被疑者・被告人との接見の際に、弁護活動として写真撮影・録画を行うことは、接見交通権として保障されるべき行為であることを表明する。
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