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少年法の「成人」年齢引下げに反対する会長声明

2015年06月12日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 自由民主党は、選挙権年齢を18歳以上に引下げる公職選挙法改正案が今国会に提出されたことを受け、「成年年齢に関する特命委員会」を設置し、少年法の適用対象年齢の18歳未満への引下げについて検討を開始し、今国会の会期中にも方向性をまとめる考えを示したと報道されている。
 しかし、選挙権年齢が引下げられることに連動して少年法の適用年齢を引下げる必然性はない。選挙権の拡大という国民主権からの権利拡大に伴い、刑事罰を受けるという義務を同時に拡大するということであれば、きちんとした立法事実の検証がなされるべきである。そして、法律の適用年齢は、各法律の立法趣旨や目的ごとに、個別具体的に検討されるべきものであるところ、少年法に関しては、既に過去の会長声明で述べているところであるが、(1)少年犯罪の数的あるいは質的な変化の有無ないし評価、(2)これまでの処遇システムの効果についての検証、(3)制度の改正によって犯罪が現在よりも減少する見通しの有無などの検討といった慎重かつ実証的な検討が不可欠である。

1 現行の少年司法システムは概ね有効に機能している

 少年法は、上記の目的を実現するため、全ての少年事件を家庭裁判所に送致させ(全件送致主義)、事件の背景や少年の育ってきた環境等について、家庭裁判所調査官及び少年鑑別所による科学的専門的調査が行われ(科学主義)、その調査結果をふまえて少年に対する適切な処遇が決定されている。さらに、家庭裁判所の審判段階における環境調整や教育的働きかけも行われている。このようなシステムこそが、少年の更生及び再犯防止に有効な役割を果たしている。

2 適用年齢引下げによる深刻な弊害が予測される

 これに対し、刑事手続きでは科学的専門的調査は行われず、行為責任に応じた刑罰が選択される。しかも、刑事手続きの場合は、多くの事件が検察官の不起訴処分や略式命令による罰金により終了しており、また、公判請求された場合にも初犯の場合は執行猶予となる確率が高く、少年事件手続に比して、刑事手続きが被疑者・被告人の立ち直りに果たす役割は限定的である。
 現行少年法のもとでは、18歳及び19歳の少年(全少年被疑者の約43%を占める)の未熟さを踏まえて教育的な働きかけにより更生・成長発達を図り、多くの少年の早期の立ち直りという効果をみているにもかかわらず、18歳及び19歳の少年を少年法の適用対象から除外してしまうとすれば、その更生の機会を奪い、再犯のリスクを高め、ひいては、社会の安全にとっても悪影響をもたらすことにつながると言わざるを得ない。

3 少年刑法犯は減少しており、凶悪化もしていない

 少年刑法犯の検挙人員は、昭和58年の31万7438人が平成25年には9万413人と3分の1以下に減少し、殺人事件の検挙人員数も昭和30年代には400人を超えていたが、平成25年には55人にまで減少しており、いずれも少年人口の減少率を遥かに上回っている。少年事件が増加しているとか凶悪化しているという事実はない。

4 現行少年法で重大事案には厳しい処罰がなされていること

 なお、少年法の適用年齢引下げの理由として、重大事件を犯した少年に対しても保護処分となる少年法は甘すぎるとの指摘もなされる。しかしながら、家庭裁判所が刑事処分相当と判断した事件については、検察官に送致し刑事裁判に付することとされており、重大事件を犯した少年の多くが公開法廷における刑事裁判を受け、裁判員裁判の対象ともなっている。また、行為時18歳以上の少年に対しては死刑判決すら選択しうるのであって、少年法が甘すぎるとの指摘は誤解に基づくものである。

5 結論

 以上のとおり、少年法の適用年齢を18歳未満に引下げるべき立法事実は何ら存在せず、むしろ少年法が果たしてきた少年の更生を通じた再犯防止やその結果としての社会の安全に重大な悪影響をもたらすものである。
 よって、当会は少年法の適用年齢の引下げに強く反対するものである。

以上