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犯罪被害者の実名報道に対する会長声明

2017年12月13日

東京弁護士会 会長 渕上 玲子

本年10月30日、神奈川県座間市のアパートから9名の遺体が見つかった。その後、11月6日に被害者のうち1名の、同月10日に残りの8名の身元が判明したことを警視庁が記者発表するや、多くの報道機関が9名の実名と顔写真を報道した。
当該被害者の遺族の多くは警視庁を通じ報道機関に対して、実名や顔写真の報道をしないよう要請していた。にもかかわらず、報道機関は前記のとおり実名等の報道に踏み切ったものであって、かかる報道が、愛する家族を残虐な犯罪によって失い、悲しみの底にある遺族の心を、さらに深く傷つけたであろうことは想像に難くない。
一般に、報道の自由は国民の知る権利に奉仕するものとして憲法上保障され、また、被害者の実名報道についても、事実を検証する機会を確保する必要性など、一定の理由があるものと考えられる。しかしながら、これらの利益も無限定なものではなく、被害者や遺族の心情やプライバシーなどとの間で、適切に比較衡量されなければならない。とりわけ、インターネットが高度に発達し、誰もが個人情報や憶測に基づく情報、過度に詮索的な情報などを容易に流通させることができる現代社会においては、ひとたび実名や写真がネット上に流れるや取り返しのつかない事態となりうることに照らせば、被害者の実名報道には殊のほか慎重な検討が求められる。
本件においては、実名等の報道が遺族の意に反していたことに加え、凄惨な被害状況や被害者側のセンシティブな事情などが併せて報道されており、実名等の報道がなされれば、それによって遺族が甚大な被害を受けるであろうことは容易に予想されたというべきである。これに対し、かかる不利益を上回る正当な利益が報道機関側にあったとは認めがたい。
このように考えると、本件の具体的状況においては、報道機関は実名や顔写真の報道は避けるべきであった。当会としては、今回の報道による遺族の心痛が一日も早く癒されることを祈りつつ、報道機関に対し再発防止を強く求めるものである。

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