東京弁護士会

さらなる生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明

2017年12月19日

東京弁護士会 会長 渕上 玲子

1.厚生労働省は、2017(平成29)年12月14日、社会保障審議会生活保護基準部会がとりまとめた「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」を公表した。報道によれば、厚生労働省は、前記部会における検証を踏まえ、生活保護基準の中核をなす生活扶助基準額を最大1割引き下げ、母子加算も2割引き下げる方針であるとされる。その後、厚生労働省が生活扶助基準の減額幅を縮小する旨の報道がなされているが、基準を引き下げる方針は変わっていない。
生活扶助基準は、すでに2013(平成25)年8月から段階的に引き下げられ(平均6.5%、最大10%)、2015(平成27)年には住宅扶助基準及び冬季加算も削減されており、今回、生活扶助基準がさらに引き下げられれば、全体の生活保護費の切り詰めが続くことになる。

2.しかしながら、今回のさらなる生活保護基準の引き下げには大きな問題がある。
(1)生活保護基準は憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営める水準が求められているところ、2013(平成25)年からなされた引き下げの生活保護世帯の生活に対する影響について、いまだ十分な検証がなされているとは言い難い。
(2)生活扶助基準の妥当性を検証する手法として「水準均衡方式」を採用し、そのなかで生活扶助基準額と年収階級第1・十分位(年収が下位10%の層)を比較している。
しかし、そもそも生活保護制度の捕捉率(制度を利用できる資格がある人の中で生活保護制度を利用している人の割合)は15.3%から32.1%にすぎず(2010(平成22)年4月9日付厚生労働省発表の「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)、年収階級第1・十分位の層の多くは、生活保護を利用できておらず、生活保護基準以下の生活を強いられているものと考えられる。
とすると、前記の手法では、生活保護基準に満たない貧困生活と生活保護基準を比較して生活保護基準の妥当性を判断していることとなり、手法そのものに問題があると言わざるを得ない。
(3)わが国が1994(平成6)年に批准している子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)は、子どもの身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての権利を認め(第27条第1項)、締約国に対し、この権利を実現するため、父母及び子どもについて責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとることを義務付けている(同第3項)。また、休息、余暇、子どもの年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動、文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利も認めている(第31条)。生活保護基準は、子どもの権利条約によるこれらの要求を満たすものでなければならない。
 その観点からすると、子どものいる世帯の生活扶助基準の比較対象として年収階層第1・十分位を選択することは、いっそう適当でなく、それに基づき生活扶助基準を引き下げ、母子加算を削減することは深刻な問題がある。
(4)生活保護基準は、住民税の非課税基準、国民健康保険料の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減免基準、就学援助金の利用基準、日本司法支援センターの民事法律扶助の援助基準など生活の中の多様な分野の施策に関連し、最低賃金の指標にもなっている。生活保護基準が引き下げられると、このような関連制度への影響も懸念される。今回の引き下げに向けて、2013(平成25)年からの引き下げによる関連制度への影響も十分に検証されていない。

3.生活保護基準部会においては、専門家である委員から、検証に採用されている水準均衡方式そのものの問題点や限界に対する指摘が相次いだ。格差が拡大し、貧困層がより貧困になる現在のわが国において、単純な水準均衡方式の採用は生活水準を押し下げる方向に働き、いわば負のスパイラルを招きかねない。
「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法や、子どもの健やかな成長発達を保障する子どもの権利条約に照らせば、生活保護制度の検証は、単に特定の算定方式からの帰結を機械的に適用してなされるべきではなく、生活保護利用者を含む低所得者層の生活の実情を踏まえてなされるべきである。にもかかわらず、2013(平成25)年以降の生活保護基準引き下げについて、このような観点から適切な検証がなされたとは言い難い。
かかる状況において、今般、国がさらに生活保護基準を引き下げることは到底容認できず、当会は強く反対するものである。

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