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袴田事件の再審開始決定に対する即時抗告審における再審請求棄却決定に関する会長声明

2018年06月11日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

本日、東京高等裁判所は、静岡地方裁判所が2014年3月27日に決定した、いわゆる「袴田事件」の再審開始に対する検察官の即時抗告に対し、原決定を取り消し、再審請求を棄却するとの決定を行なった。
「袴田事件」は、1966年6月に静岡県清水市(現静岡市清水区)で味噌店の一家4人が殺害、自宅に放火された事件である。当時、味噌店の従業員であった袴田巌氏が強盗殺人、放火、窃盗の容疑で逮捕・起訴され、無実を主張していたが、後に味噌製造工場の味噌タンク内から血液が付着した5点の衣類が発見されたことなどから、死刑判決が言い渡され、1980年12月最高裁判所で死刑が確定した。
静岡地方裁判所は、弁護団が提出した、5点の衣類に付着した血液のDNA鑑定などの新証拠を踏まえ、有罪判決の根拠となった「5点の衣類」が、「袴田の着用していたものでもなく、犯行に供された着衣でもなく、事件から相当期間経過した後、味噌漬けにされた可能性があ」り、「証拠がねつ造されたと考えるのが最も合理的であり、現実的には他に考えようがな」い、と判断し、再審開始を決定し、袴田氏に対する死刑及び拘置の執行を停止した。
今回、東京高等裁判所は、静岡地方裁判所が上記認定の根拠としたDNA鑑定の方法について、「科学的原理や有用性には深刻な疑問が存在し」、原決定がこの鑑定を「過大評価している」などと批判して、証拠としての明白性を否定するなどし、結論としては、原決定が認定した、捜査機関による証拠のねつ造を否定し、再審請求を棄却した。
今回の再審請求棄却決定は、再審開始を認めた原審が、科学的な鑑定を虚心坦懐に見つめ、"疑わしきは被告人の利益に"という刑事裁判の鉄則を貫き、行なった判断を蔑ろにするものであり、極めて不当といわざるを得ない。
静岡地方裁判所が再審開始を決定してからすでに4年、袴田氏は、現在82歳であり、一刻も早く再審が開始されることが望まれる。
当会は、東京高等裁判所が行なった、原決定取消・再審請求棄却決定に対し、強く抗議するとともに、今後、袴田氏の再審開始に向けて、袴田氏及び弁護団を全面的に支援していく所存である。

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