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東京都子供への虐待の防止等に関する条例(仮称)において体罰禁止条項が盛り込まれることについての会長声明

2018年12月28日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

東京都は、児童虐待防止の取り組みを一層進めるために「東京都子供への虐待の防止等に関する条例(仮称)」の骨子案(以下「本条例案」という。)をまとめ、その中の「保護者等の責務」という項目で、「保護者は、体罰その他の品位を傷つける形態による罰を子供に与えてはならないこと」として、体罰禁止条項を盛り込んだ。
わが国における虐待による死亡児童数(無理心中を除く)は、国で統計をとり始めた平成15年以来概ね年間50人規模で推移を続け、その数は一向に減少していない。また、本年は、目黒区の児童死亡事案がマスコミで大きく取り上げられる事態となった。虐待により児童が死亡する場合には、親による暴力が少なからずその背景に存在すると考えられ、「子どもの生命」という最も尊重すべきものを守るため、親による暴力をまずは禁止することが不可欠である。その意味で、本会は、本条例案に体罰禁止条項が盛り込まれたことを、評価する。
しかしながら、本条例案が体罰禁止条項を盛り込むことで、児童虐待防止施策に満足するとすれば、甚だ不十分と言わざるを得ない。
子どもの個性や家庭環境など様々な理由によって、育児自体に負担を感じる保護者は現に相当数存在する。そのような状況のもと、親が体罰という手段を選択しないようにするためにも、親の育児負担を軽減する方策を充実させることを、社会の責務と定めるべきである。体罰の問題をすべて親の躾の質の問題とし、親のみに責任転嫁する解決は許されない。泣きやまないわが子の口を思わずふさごうとまで思ってしまう、といった追い詰められた親側の心理を社会が理解しない限り、親は社会で孤立した存在のままであり、結果、体罰に至ってしまうことが生じうる。
以上より、本条例案には、体罰を禁止する条項とともに、子育てしやすい社会インフラの整備を行う方針を明記すべきであり、育児相談を充実させる(親が相談に行きやすいように場所・時間等の拡充を図ること)のみならず、具体的な子どもの養育方法に関するプログラムの無償提供、子どもを抱える親の負担について社会的理解を深める普及・啓発活動の展開など、具体的な親支援の施策もあわせて実施しなければならない。本条例案には、虐待を行った親に対する指導及び支援が盛り込まれるが、虐待した親の支援のみならず、子育てについて親が悩んでいる段階からの支援を充実させ、親が子育てをしやすいと感じるよう環境の整備を進めるべく、本条例案に必要な規定を盛り込むべきである。

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