東京弁護士会

いわゆる迷惑要件を、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」第11条の要件としないことを求める会長声明

2019年03月04日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

東京都は、本年1月10日、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(以下、「本件条例」という。)」第11条に規定する公の施設の利用制限に関する要件として、「不当な差別的言動が行われる蓋然性が高いこと」との要件(以下、「人種差別要件」という。)に加えて、「ヘイトスピーチが行われることに起因して発生する紛争等により、施設の安全な管理に支障が生じる事態が予測されること」(以下、「迷惑要件」という。)をも要件とし、利用制限には2つの要件をともに満たすことを要する方針を示した。しかし、当会は、東京都に対し、下記の理由から、迷惑要件を要件としないことを求める。

第1 迷惑要件は最高裁判例において要求されているものではないこと

東京都が、上記の方針を示したのは、迷惑要件を要件とすることが最高裁判例において要請されているとの見解に立っているからではないかと思われる。しかし、最高裁判例は、公の施設の設置目的からみて不相当な利用目的により利用申請がなされた場合に、地方自治体が当該施設の利用を拒否することは当然認められることを前提としている。したがって、端的に、公の施設の利用申請が、人種差別撤廃条約や「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下、「ヘイトスピーチ解消法」という。)」の趣旨に反し、公の施設の設置目的に適合しない利用目的でなされたものであるか否かを審査すれば足りる。

第2 人種差別撤廃条約や、ヘイトスピーチ解消法の要請にも合致しないこと

迷惑要件は、人種差別撤廃条約第4条(c)「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと」の趣旨にも合致しない。また、ヘイトスピーチ解消法は、地方公共団体について、ヘイトスピーチの解消に向けた取組に関し、当該地域の実情に応じた施策を講ずる責務を定めている。人種差別要件とは別にさらに迷惑要件をも要件とすることは、同法の要請に合致しない。

第3 既存のガイドラインの運用からも迷惑要件は不要であること

京都府及び京都市は、それぞれ、公の施設の利用許可に関してガイドラインを策定している。これらのガイドラインにおいては、人種差別要件の他に、迷惑要件類似の要件が定められているが、選択的な要件とされているため、ヘイトスピーチの解消に関し、大きな弊害は報告されていない。
他方、川崎市も公の施設の利用許可に関してガイドラインを策定している。このガイドラインにおいては、人種差別要件及び迷惑要件をともに満たすことを定めているため、確信的に差別煽動を繰り返している者による集会の申請についても施設の利用を許可せざるを得ず、その結果、当該集会において一部の参加者から「ウジ虫、ゴキブリ、日本から出ていけ」とのヘイトスピーチに該当する発言がなされた例がすでに発生している。

当会は、日本における人種差別の撤廃に関連して、これまですでに「地方公共団体に対して人種差別を目的とする公共施設の利用許可申請に対する適切な措置を講ずることを求める意見書」(2015年9月7日)、「地方公共団体に人種差別撤廃条例の制定を求め、人種差別撤廃モデル条例案を提案することに関する意見書」(2018年6月8日)を発出し、人種差別撤廃モデル条例案をも策定、公表してきた。
当会は、東京都に対し、迷惑要件を、本件条例第11条の要件としないことを求めるとともに、今後も人種差別の撤廃のために力を尽くすことを表明する。

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