東京弁護士会

住民基本台帳ネットワークシステムの施行延期を求める会長声明

2002年07月12日

東京弁護士会 会長 伊礼 勇吉

 国民全員に11桁の番号(住民票コード)を強制的に割り当て、この番号と住民基本台帳上の個人情報(氏名、性別、生年月日、住所)を全国の地方自治体と中央省庁を結んだコンピューターネットワークに流通させる「住民基本台帳ネットワークシステム」(以下、「住基ネット」という)は、本年8月5日の施行が予定されている。しかし、現段階において、住基ネットには以下に述べるとおり極めて重大な問題がある。

1 個人情報保護制度の不備

 大規模なネットワークによって大量の個人情報を管理する住基ネットは、個人情報の漏洩や不当利用の危険性がきわめて高い。そのため、政府は、住基ネットにかかる住基本台帳法改正案の国会審議において、改正法施行の前提条件として、個人情報保護法制の整備を確約し、改正法の付則にもその趣旨がうたわれた。
しかし、今国会に提出された「行政機関の保有する個人情報に関する法律案」は、行政機関による個人情報の名寄せを禁止せず、かえって個人情報の目的外使用や目的の変更を緩やかな要件で許容するなど、その内容に多くの問題点がある上、今国会における成立は不可能な状況となっている。 したがって、住基ネットは、施行の前提条件を欠いている。

2 セキュリティの不備

 全国民の個人情報を取り扱うこととなる住基ネットを施行するにあたっては、セキュリティの確保について、名実ともに万全の態勢を整える必要があることは論を待たない。
しかしながら、日本弁護士連合会が本年7月5日に発表した自治体アンケートの結果によれば、全国で行われている住基ネットの試験運転において多数のトラブルが発生し、多くの市区町村が準備期間の不足を感じていることが明らかである。また、担当職員のコンピュータに関する知識も不十分で、配布されたマニュアルを理解できていないという実態も明らかとなった。
このように、現実に住基ネットを運用することとなる市区町村の現場においてセキュリティを確保するに足る態勢が整備されていない状況の下で住基ネットの施行を強行すれば、個人情報流出等の重大なトラブルが発生する危険性が極めて高い。

3 施行延期を望む自治体の意見

 上記のとおり、住基ネットの8月5日施行については、その前提条件である個人情報保護法制が未整備である上、セキュリティの確保にも重大な疑問があることから、前述の日弁連アンケートにおいて、施行を延期すべきでないと答えた自治体は約20%にとどまった。さらに、施行延期を求める意見書・決議等の意思表明が、60を越える自治体の首長ないし議会によってなされている。
そもそも、住民基本台帳事務は市区町村の担当とされ、住基ネットの第一次的管理責任を負うのも各市区町村である。とすれば、その施行にあたっては、市区町村の十分な理解を得ることが不可欠である。市区町村を含む多くの自治体の意見を無視し、住基ネットの施行を強行することは、地方分権の見地からもきわめて問題があるといわざるを得ない。

 よって、当会は、住基ネットの本年8月5日施行に反対し、速やかに施行延期の立法措置を採るよう求めるものである。

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