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最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明

2019年06月17日

東京弁護士会 会長 篠塚 力

現在の東京都の最低賃金額は985円である。この賃金で1日8時間、1か月21日労働しても、月収約16万5000円、年収約198万円にしかならない。これではその労働者が生活を維持することは困難であり、いわんや家族を形成することは一層困難である。
東京都内に住む20~40歳までの2人暮らしに支給される生活保護費は最大で18万2210円なのであり、このことからも、最低賃金額で就労する働き手一人だけでは、配偶者や子など被扶養者がいる世帯の家計を維持するために必要な最低生活費すら得られないことは、明らかである。
総務省が2019年5月31日に発表した平成30年労働力調査年報によれば、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員(非正規労働者)の割合は37.8%である。そして、非正規労働者が就く仕事は、最低賃金額と同額かそれをわずかに上回る程度の賃金にとどまっている仕事が少なくない。そして現在の非正規労働者は、家計補助のためではなく自らの家計を支えるために働いている者が多く、その結果として、非正規労働者の賃金の低さは、その家族の家計の苦しさに直接つながっている場合が多いのである。
日本の2015年の相対的貧困率は15.6%であり、約6人に1人が貧困という高い水準である。非正規労働者の増加とともに最低賃金額の低さが日本の高い貧困率を招き、ワーキングプアを生じさせている大きな要因となっていることは明らかである。
ワーキングプアの実態は2018年1月に東京都が発表したネットカフェ調査でも明らかになっている。この調査では、ネットカフェ難民(住居喪失者)のうち86.5%が仕事をしている者であった。働いていても住宅を確保することが困難な賃金しか得られない者がいるのである。
このような非正規労働者の生活を改善するため、迅速かつ大幅な最低賃金額の引き上げが必要である。そのためには、東京都の最低賃金額を決定する最低賃金審議会に、非正規労働者の実態をよく知る非正規労働者の利益の代表者を委員に加えることが必要である。また、密室の審議会で最低賃金額が不透明に決定されることのないよう、審議会の討論は公開されるべきである。
また、最低賃金額の迅速かつ大幅な引上げにより中小企業の経営に悪影響が出ないよう、社会保険料の減免、補助金等の支出などの支援策を併せて行うべきである。
以上のとおり、当会は、最低賃金額を迅速かつ大幅に引き上げることを求めるとともに、その制度的担保として、最低賃金審議会に非正規労働者の利益の代表者を委員に加えること、審議会の討論を公開すること、及び、最低賃金額の引き上げによって経営に影響を受ける中小企業への支援策の実施を求めるものである。

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