東京弁護士会

学生支援緊急給付金に関する会長声明

2020年06月11日

東京弁護士会 会長 冨田 秀実

政府は、2020年5月19日、新型コロナウイルス感染症拡大により世帯収入、アルバイト収入等が激減し、経済的困窮に陥った学生等に対し、「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』を創設することを閣議決定した。
本給付金は、経済的に困窮し、大学等の学費を支払えず、中退せざるを得ない学生などを救済し、教育を受ける権利を保障するための措置として、ぜひとも実施が必要なものであり、本給付金の創設、実施は、本会も積極的かつスピーディに推し進めるべきものと考える。
しかし、本給付金制度には、次の2点で、合理的理由のない差別的制度が設けられている。

第一に、外国人留学生にのみ、「成績優秀者」の条件が課せられている点である。
留学生に対する給付金要件を加重した理由として、文部科学省は、「いずれ母国に帰る留学生が多い中、日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定めた」と説明したと報道されている(2020年5月20日共同通信)。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症拡大により、アルバイト等の収入源が途絶えるなどして、経済的に困窮しているという事情は、外国人留学生であっても、非留学生であっても異ならず、文部科学省の説明は、制度趣旨に反する。
また、政府は、2008年、「留学生30万人計画」を打ち出し、「国際貢献」を掲げて外国人留学生を積極的に受け入れる政策を実施し、その結果、外国人留学生の人数は2008年から倍増し、2019年5月1日現在、31万2214人に上っているのである(2020年4月22日文部科学省発表)。
それにも関わらず、いざ経済的困難に陥ったときに、同じ学生であるのに留学生にのみ過重な要件を課すのでは、「国際貢献」どころか利用主義にほかならず、留学生送り出し国を含む国際社会の信頼を失う。

第二に、本給付金の対象から、朝鮮大学校を対象外とした点である。
文部科学省の2020年5月19日の発表時点では、対象を大学・大学院、専修学校及び日本語学校としたため、各種学校である朝鮮大学校のほかに、外国大学の日本校6校も対象外となっていた。
その後、文部科学省は市民団体等から指摘を受け、上記外国大学日本校6校については、各種学校認可も受けていないテンプル大学日本校を含め、対象に含める旨変更したが、未だ朝鮮大学校1校のみ、対象外となったままである。
しかし、朝鮮大学校の学生も、新型コロナウイルス感染症拡大により、アルバイト等の収入源が途絶えるなどして、経済的に困窮しているという事情に変わりはなく、文部科学省による取扱いの差異に合理的理由はない。
2020年5月29日、特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク、外国人人権法連絡会などの市民団体が、文部科学省と交渉を行い、5万5000通を超えるネット署名を提出し、上記差別的取扱いの是正を要求した。これに対し文部科学省は、朝鮮大学校は各種学校であり、高等教育機関であることの担保がないと説明した。
しかし、1998年、京都大学が朝鮮大学校卒業生の大学院受験を認め、合格したことを契機に、文部科学省は1999年8月、学校教育法施行規則を改正し、大学院入学資格を拡充した。その結果、入学資格がなかった朝鮮大学校も外国大学日本校も入学資格が認められることになった。また、2012年には、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則が改正され、「各種学校(大学入学資格を有するものであって、修学年限4年以上のものに限る)を卒業した者」が加えられ、専修学校に加え、朝鮮大学校卒業生も、試験を受験できるようになった。
このように、朝鮮大学校を日本の高等教育機関として認めた法制度がすでに存在し、同校が日本の高等教育機関であることの担保は十分になされているが、文部科学省の説明は、これらの事実を無視している。

これら留学生に対する要件加重、朝鮮大学校の排除は、憲法第14条(平等権)、並びに日本が締約国となっている人種差別撤廃条約、自由権規約及び社会権規約に反するものである。
たとえば人種差別撤廃条約第2条Cは、「各締約国は・・・人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするための効果的な措置をとる」義務を定めているが、今回の差別的設計は、まさに新たに人種差別を生じさせる法令といえる。
また、新型コロナ対策に関する国連人権高等弁務官事務所のガイダンスで、救済にあたり「誰ひとり取り残さない」ことを原則とし、「排除されるおそれがあるかもしれない人々(マイノリティ、移住者など)に対し特段の配慮が必要」と指摘していることと、真っ向から逆行する。
以上により、当会は、文部科学省に対し、ただちに本制度における差別是正を求めるものである。

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