東京弁護士会

「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に基づく刑事罰導入等に反対する会長声明

2020年06月22日

東京弁護士会 会長 冨田 秀実

法務大臣の私的懇談会である「出入国管理政策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「本専門部会」という。)は、2020年6月19日、「本邦から退去しない行為に対する罰則」の導入等を内容とする「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を発表した。
そもそも本専門部会が設置されたのは、2019年6月に大村入国管理センターで起きた長期被収容者の餓死事件と、被収容者の長期収容に対する大規模な抗議活動が契機となった。ところが本提言は、収容期間に上限を設けることや司法審査の導入という、長期収容問題の解決に不可欠な制度改正については見送る一方で、被収容者等が帰国できない理由とその原因について十分な調査とそれに基づく的確な分析、対応を検討することなく送還の強化を企図したものであり、かえって不当な権利侵害となりうるものである。
特に、退去強制令書の発付後も日本から退去しない者に対する罰則の創設は、在留特別許可を求める者や、難民に該当するのに難民認定されないため、やむを得ず難民の複数回申請をする者等正当な権利行使を行おうとする者が処罰対象となる可能性がある点で容認できない。出入国在留管理関係訴訟で国の敗訴が確定した判決が、平成28年以降の3年間でも合計26件と少なからず存在する事実(本専門部会第3回会合資料5)を軽視することはできない。さらには、そのような者を善意で支援する者、日々の生活を支える配偶者等の家族、無料・低額診療を提供する医師・看護師、相談や依頼を受ける行政書士、弁護士等の専門家が共犯とされる可能性も払拭できず、人道行為、家族の日常の生活や権利擁護活動までもが不当に処罰されかねないのであり、これらの活動を著しく萎縮させるおそれを否定することはできない。加えて、そもそも長期収容されても日本に在留し続けることを選択せざるを得ない被収容者に対して効果があるのかすら疑わしい。
また、難民申請手続中の送還を可能にする「送還停止効の例外」の導入は、難民認定率が諸外国に比べて格段に低い日本においては、誰一人として迫害を受けるおそれのある地域に送還してはならないという「ノン・ルフールマンの原則」に反する結果を招来する危険が高い。複数回申請者を難民制度の誤用・濫用者と決めつけるのではなく、難民が間違いなく難民として認定されるようにする制度設計こそが求められる解決策である。
仮放免された者が逃亡した場合の「逃亡等の行為に対する罰則」の創設も、無期限収容という不利益を前にしては逃亡を抑止する効果は期待できず、処罰対象者が際限なく広がりかねないことは「本邦から退去しない行為に対する罰則」と同様である。
長期収容問題の解決にあたっては、被収容者の人間としての尊厳を守ろうとする意識の欠落が、収容施設内で繰り返し生じる被収容者の死亡事件、昨年の餓死事件、広範な抗議活動に繋がったことを想起しなければ、同様の悲劇が繰り返されるのを防ぐことはできない。したがって、刑事罰や送還停止効の例外の導入等により締め付けを図るのではなく、長期収容を防止するセーフティーガードとなる収容期間の上限の設置や、収容に対する司法審査の導入等、被収容者の尊厳を守ることを念頭に置き、人権侵害を防止できる制度設計を行うべきである。

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