入管法に「監理措置制度」を導入することに反対する会長声明
2020年12月21日
東京弁護士会 会長 冨田 秀実
2020年8月28日、国連人権理事会の恣意的拘禁に関する作業部会は、効果的な司法救済がなく、上限の定めのない日本の入管収容は自由権規約第9条第1項が禁じる「恣意的拘禁」に当たるとの意見を表明し、日本政府に対して、条約に適合するよう法改正を要請した。この指摘のとおり、現在の日本の収容制度は、収容に際しての事前又は定期的な司法審査なく全て法務省出入国在留管理庁(以下「入管庁」という。)の判断に委ねられ、逃亡の危険などの収容の必要性を問わない全件収容主義である上、収容期間にも上限がないなど大きな問題を抱えている。
これに先立つ2020年6月19日、法務大臣の私的諮問機関である第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」の公表した報告書「送還忌避・長期収容の解決に向けた提言」は、こういった無期限収容などを温存する一方、長期収容問題の解消のため、いわゆる収容代替措置(解放措置)の検討を提言した。
しかし、現在、収容代替措置として議論されている「監理措置制度」(2020年11月6日自民党政務調査会法務部会における入管庁配布資料参照)は、以下のとおり、収容問題の根本的な解決にいたらないばかりか、さらなる問題を抱えている。
まず、現在議論されている監理措置制度によっても、全件収容主義が維持されており、対象者に逃亡の危険がない場合など本来なされるべきでない収容を防ぐことはできない。また、監理措置の判断は、入管によりなされ、司法の関与はない。監理措置に付するか否か入管庁の職権判断に委ねられる以上、個々の判断の中立性や公平性、透明性は確保されない。さらに、監理措置の対象とならない者については無期限収容が続くことも現状と何ら変わりがない。
このように、監理措置の導入によっても恣意的拘禁は何ら解消されない。
さらに、監理措置制度は、現在の収容制度が有する問題に加え、以下の問題をも有する。
入管庁が監理人を指定し、報告義務を課すことは、監理人を入管庁の監督下に置くことを意味し、例えば弁護士が監理人となった場合は、守秘義務違反や利益相反の問題を生じさせることになる。また、弁護士以外の支援者が監理人となる場合も、これまでの自然的情愛に基づく支援者と被支援者の関係性が、入管庁の監督権限を背景に、監理する側とされる側という、支配・被支配の関係性へと変容を迫られる。監理措置の導入は支援者らの活動のあり方にまで影響を及ぼすことになる。
このように、監理措置は入管庁の権限を拡大させる一方で、本来は入管庁が行うべき在留資格のない人に対する必要なケアにかかる負担を民間に転嫁するだけであるから、これまでのような支援者らの活動は継続困難となることが予想される。
以上のように、導入が検討されている監理措置制度は、入管庁の管理権限を強化しつつ在留外国人の生活支援や難民支援に重大な支障を生じさせるだけで、現在の収容制度が抱える問題点を何ら解消するものではない。このような法改正は、国連人権理事会の恣意的拘禁に関する作業部会の意見とは正反対の方向へと向かうものである。
当会は、方向性を誤った議論により監理措置制度を導入することに強く反対するとともに、条約と国際基準に準拠し、国連人権理事会の恣意的拘禁に関する作業部会の意見に沿った収容制度を構築し、全件収容主義を廃止して適切な収容代替措置を速やかに導入するよう求める。
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