東京弁護士会

名古屋入管収容場における女性死亡事件の厳正な調査を求めるとともに、広範な裁量による入管行政に、法の支配を及ぼすことを求める会長声明

2021年03月24日

東京弁護士会 会長 冨田 秀実

第1 本年3月6日、名古屋出入国在留管理局収容場で、収容中の30代のスリランカ国籍の女性が死亡する事件(以下「本件」という。)が起きた。報道によれば、昨年8月より収容され、収容時より体重は20キロも痩せ、ストレスから吐血や嘔吐があり食事を摂取できず、本人や支援者が外部の病院での点滴などの治療を求めていたものの入管に拒否されていたという。本件については入管内部の調査ではなく、第三者機関による、証拠(監視カメラの映像、診療記録、動静日誌等)の保全も含めた厳正な調査を行うべきである。
第2 入管が被収容者に対して適時に適切な医療を提供しない事件や施設内で被収容者が死亡する事件は繰り返し発生しており、当会は2019年4月18日付声明 などで繰り返し改善を求めてきた。
入管が被収容者に対して適時に適切な医療を提供することは、現行の法令においても十分可能である。すなわち、入国者収容所長及び地方出入国在留管理局長(以下「所長等」という。)は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならないと定めている(被収容者処遇規則第30条第1項)。しかし実際は、被収容者が体調不良を訴えたときにどのような処置をするかは「適当な措置」という抽象的な文言で所長等の広範な裁量に委ねられているため、被収容者に対して適時に適切な医療を提供しない事件や施設内で被収容者が死亡する事件が繰り返されている。
また、本件では、被収容者は昨年8月から収容されていたとされ、半年以上収容されていたようである。もし入管が職権判断(入管法第54条第2項)することも含めて早期に仮放免を許可して身体解放していたならば、ストレスによる症状が改善し、あるいは自ら適切な医療を受けることができたとも考えられる。しかし、この仮放免制度も、許可・不許可は入管の広範な裁量に委ねられており、法律に記されていない入管内部の方針でその時々で厳格化されたり、緩和されたりと恣意的に運用されている。
第3 翻って、在留資格のない外国籍者を収容するか否か、一旦収容した者の収容期間(収容を継続するか否か・仮放免を許可するか否か)、医師の診療・治療を受診させるか、内部診療か外部の専門病院の受診かなどは、全て入管の広範な裁量に委ねられており、入管法は、この広範な裁量を規制することなく、ほぼ野放しにしている。
近時、入管法改正法案が国会に提出されたが、当会が本年3月8日付声明 で反対したとおり、改正法案は、入管の広範な裁量を規制するどころか、入管当局の権限強化を徹底的に図るだけの内容である。改正法案が規定する監理措置制度によっても、全件収容主義が維持されており、監理措置に付するか否かも入管の裁量に委ねられ、個々の判断の透明性・公正は確保されず、対象者に逃亡の危険がない場合など本来なされるべきでない収容を防ぐことはできない 。
改正法案には、所長等に被収容者に対する強制的な治療の実施を認めるような規定もあり(改正法案第55条の42)、政府は、これまでよりも被収容者に対する治療をより積極的におこなえると説明するかもしれない。しかし、現行の法令も、少なくとも本人が治療を拒否するような事情が無い限り、適時に適切な医療を提供することは何ら妨げられていないのであり、それにも関わらず、本件の発生は止められなかったのである。改正法案第55条の42をもってしても、「負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるとき」(同条第1項第1号)の判断が入管に委ねられ、何が「必要な」医療上の措置(同条第1項柱書)かの判断も入管又は入管が委嘱する医師などに委ねられるのでは、本件のような事件が再び起きることを防ぐことはできない。
第4 これまでも人命が失われる悲痛な事件が繰り返されてきたが、それにもかかわらず一向に事態が改善しない理由は、入管法が入管の「裁量による支配」を基本としているからである。
入管の「裁量による支配」を前提とする管理措置制度によっては、本件と同様の死亡事件が起きることを防ぐことは決してできない。
いま必要なのは、入管行政の広範な裁量による支配に対し、法律上、収容の開始及び継続(仮放免の可否を含む)に対する司法審査の必置、医療も含む個々の被収容者の処遇なども調査できるよう入国者収容所等視察委員会の権限を拡大することなどを明記し、入管の裁量を規制して真に法の支配を及ぼすことである。
これ以上、入管収容制度の過ちにより人を死に至らしめてはならない。

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