憲法改正手続法の改正法に反対する会長声明
2021年05月20日
東京弁護士会 会長 矢吹 公敏
1 2007年5月に「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「憲法改正手続法」という。)が成立した。その際に参議院は、「テレビ・ラジオ等の有料広告について公平性・中立性が確保されるべきこと」「最低投票率の規定を設けること」等の18項目にわたる附帯決議をし、さらに2014年6月の一部改正の際にも参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされ、重大な検討課題が数多く残されていた。
しかし、その後今日に至るまで、上記の附帯決議にかかる法改正は実行されていない。
本年5月11日、憲法改正手続法の一部を改正する法律案(以下「本改正法律案」という。)が、衆議院本会議で可決されたが、公職選挙法改正に合わせて投票環境の整備等に関する規定を改正するにとどまっており、やはり上記の重大な検討課題に関する改正は一切なされていない。
本改正法律案には、「施行後3年を目途に、...必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」との付則があるが、そこでは、わずかにテレビ放送有料広告及び有料意見広告の制限(インターネットも含む)に言及されているにとどまり、そのほかの重大な問題点については触れられていない。
2 憲法改正手続法については、当会はもとより、日本弁護士連合会や各地方単位会が法成立後に様々な問題点を指摘してその見直しを求めた。日本弁護士連合会は2009年11月18日付「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」を発表し、「原則として改正項目ごとの個別投票方式とすること」「国民に対する情報提供を担う国民投票広報協議会の構成等の在り方を見直すべきこと」「公費によるテレビ・ラジオ・新聞の利用について公平性・中立性が確保されるべきこと」「有料意見広告放送の公平性の確保や禁止期間等については、表現の自由に対する脅威等を十分に検討すること」「最低投票率の規定は不可欠でありその規定を設けること」「無効票を含めた総投票数を基礎として過半数を算定すべきこと」等、多くの課題等を指摘して、その見直しを求めた。
当会は、2005年9月から2018年5月にかけて繰り返し同様の問題点を指摘しその見直しを求める会長声明を発してきた。にもかかわらず、本改正法律案では、それらの問題点が何ら検討されておらず、公職選挙法改正に合わせた7項目の改正にとどめたことは、国会が自らの附帯決議をないがしろにするものといわざるをえない。
3 憲法改正手続法が成立してから、すでに14年が経過しているにもかかわらず、国会自らが認識している問題点について、改正検討部分を著しく狭く限定した上で、なおも3年間先延ばしするのは、極めて不当であると言わざるを得ない。
特に、「テレビ・ラジオ等における有料意見広告放送」「最低投票率」「投票の過半数」の各項目を現行制度のままとして憲法改正国民投票が行われた場合、憲法改正の最終的な意思決定権者である主権者たる国民の意思を公正かつ十全に反映したものとは到底言い難い事態が生じる恐れがあるから、早急にこれらの項目の抜本的な改正が必要である。
当会は、上に指摘した憲法改正手続法の各問題点の抜本的改正をしないまま本法改正法律案を成立させることに反対するものである。
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