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成年年齢引下げに伴う消費者被害防止のための施策の速やかな実現を求める会長声明

2021年06月15日

東京弁護士会 会長 矢吹 公敏

民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(以下「民法改正法」という。)の施行日である令和4年4月1日まで、あと10ヶ月となった。
一般に社会経験、知識、判断力に乏しい若者はマルチ商法やキャッチセールスなどの悪質商法の被害に遭いやすいが、未成年者については民法の未成年者取消権により保護されてきた。しかし、民法改正法施行により18歳・19歳の若者は未成年者取消権を失うこととなり、これらの若者が悪質商法のターゲットとなることで、消費者被害が拡大することが強く懸念される。
法制審議会も、平成21年10月の「民法の成年年齢引き下げについての意見」(以下「法制審議会意見」という。)においては、成年年齢の18歳への引下げを適当としながらも、①若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれの解決に資する施策が実現されること、②施策の効果が十分に発揮されること、③施策の効果が国民の意識として現れたことを法整備の条件としていた。これらの条件がほとんど達成されていないまま、平成30年の通常国会に民法改正法案が提出され、同年6月に同法は成立したが、国会審議の中で成年年齢の引下げの問題点が明らかとなった。
このような成立の経緯から、参議院法務委員会は全会一致で、①早急にいわゆるつけ込み型不当勧誘取消権を創設することなど若年者の消費者被害を防止し、救済を図るための必要な法整備を行うことにつき検討を行い、法成立後2年以内に必要な措置を講ずること、②マルチ商法等の被害の実態に即した対策について検討し、必要な措置を講ずること、③消費者教育の充実、④成年年齢引下げについての周知徹底、などを内容とする附帯決議を行った。この附帯決議は、法制審議会意見が掲げた条件を法施行までに必ず実現すべき課題として明記したものであり、しかも法成立後施行まで3年10ヶ月もの期間が設けられた。
ところが、法成立後約3年を経過し、施行まで約10か月となった現在に至っても、附帯決議の内容は実現されていない状況にある。つけ込み型不当勧誘取消権の創設については、必要な措置を講じるべきとされた法成立後2年以内という期限を既に大きく徒過したにもかかわらず、創設のための措置が講じられる目処も立っていない。消費者教育については、成年年齢引下げに伴う消費者被害を未然に防止しうる実践的な消費者教育を開始しておくべきであったところ、現状ではそのような段階には至っていない。さらに、成年年齢引下げ自体は周知されていても、未成年者取消権を18歳で失うことの意味やリスクなどの周知徹底は未だ十分とはいえない。
以上の実情からすれば、附帯決議で示された消費者被害防止のための施策は未だ全く整備されておらず、これから直ちに必要な措置に着手しなければ、施行日までにかかる施策を実現するのは困難である。
よって、当会は、上記状況を踏まえ、国に対し、上記附帯決議に示された施策全ての速やかな実現を求めるとともに、仮に施策が実現されないときは、未成年者取消権の行使可能年齢を引き下げる部分について施行日を延期することを求める。

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