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選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明

2021年06月17日

東京弁護士会 会長 矢吹 公敏

夫婦が希望すれば双方とも婚姻前の姓を名乗ることができる選択的夫婦別姓制度については、1996年に法制審議会で答申が出されて以来導入が検討されてきたが、実現に至らないまま、実に25年間が経過した。
当会はこれまでも、婚姻に際して夫婦が同姓となることを強制する民法第750条について、人権侵害ないし不合理な差別であることを指摘し、速やかに改正を求める意見を表明してきた。
氏名は個人として尊重される基礎であり、人格の象徴として人格権の一内容を構成するものである(1988年2月16日最高裁判決)。婚姻によって夫婦の同姓を強制する民法第750条は、自己の意に反して改姓を余儀なくされる者に対する人格権の侵害であり、憲法第13条違反にあたる。
また、民法第750条が例外なく夫婦は同姓にしなければならないとしている結果、互いに旧姓を維持したいという信条を持つ夫婦は法的に婚姻することができず、相続・税控除・共同親権などの法律婚の効果を享受できない。この点において、民法第750条は信条による差別として憲法第14条違反の問題も生じる。
わが国においては、婚姻にあたり実に95.5%の夫婦において女性が姓を変えており(2019年厚生労働省人口動態調査)、看過し難い不平等が生じているというほかはない。改姓により生じる職業上及び生活上の不利益のほとんどを女性が被っている実態は、女性活躍の推進にも明らかに逆行している。
この点、民法第750条の改正でなく旧姓を通称使用できる範囲を拡大すべきとの意見がある。最高裁も、2015年12月16日判決において、多数意見で「旧姓の通称使用が広がることで一定程度は緩和される」として、同姓強制を定める民法第750条の違憲性を認めなかった。 
しかしながら、このような意見は旧姓の通称使用をすることによる不利益に対する想像力を欠くものであり、旧姓の通称使用は問題の解決にはならない。改めるべきは、民法第750条が個人の人格権と平等権を侵害している事実及びその背景にある家制度の名残ともいうべき価値観そのものであり、この点を温存したままの対症療法的な通称使用での決着は弥縫策に他ならない。
もっとも、前記最高裁判決は、民法第750条を合憲としたものの、多数意見において選択的夫婦別姓制度を採用するか否かを含め「国会で論ぜられ、判断されるべき事項にほかならない」として、国会に議論を促進するよう求めていた。
同判決後の各種世論調査においては、選択的夫婦別姓導入に賛成する割合が、反対の割合を上回っている(2017年内閣府「家族の法制に関する世論調査」)。特に、女性の20代~30代で見ると、20代は賛成50.2%、反対19.8%、30代は賛成52.5%、反対13.6%となっており、選択的夫婦別姓制度導入を支持する世論は高まっている。地方議会においても、前記最高裁判決以前に比して選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書等が多数採択されている。
2020年12月、事実婚の夫婦が夫婦別姓で提出した婚姻届の不受理処分に対する不服申立が最高裁大法廷に回付された。複数の地方裁判所で提起された事実婚の夫婦を原告とする国家賠償請求事件も最高裁小法廷に係属している。また、遅きに失した感はあるものの、現在、与党内でもワーキンググループによる検討が始まっている。
以上の諸状況を踏まえ、当会は、選択的夫婦別姓制度を直ちに導入すべく、民法第750条の改正を改めて強く求めるものである。

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