「重要土地等調査規制法」強行可決に抗議し、同法の廃止を求める会長声明
2021年06月24日
東京弁護士会 会長 矢吹 公敏
本年6月16日未明、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(以下「本法」という。)が参議院本会議で可決され、成立した。
本法は、内閣総理大臣が安全保障上重要とみなす米軍・自衛隊基地、海上保安庁施設、原発等の「重要施設」の周囲約1キロと国境離島を「注視区域」に指定し、区域内にある土地・建物(以下「土地等」という。)の所有者や使用者ら(以下「土地等利用者」という。)を調査することを定めるとともに、「注視区域」のうち特に重要とみなすものを「特別注視区域」に指定し、土地等の利用に関し調査や規制ができるものとして、中止命令違反、届出義務違反、報告義務違反にはそれぞれ罰則を科すものである。
しかし、本法は、次のとおり重大な問題を孕んでいる。
①本法は、規制対象となる「注視区域」及び「特別注視区域」の指定基準、「重要施設」の指定基準、「重要施設」及び国境離島等の「機能を阻害する行為」とその「明らかなおそれ」の判断基準を何ら明確にせず、これらの一部については政令に委任し、政府の裁量で決められるものとする。
このような法律では、国民の権利自由が不当に制約されるおそれがあり、三権分立の下、政府の権限を適正な範囲に限定する立法を行うべき立法府が、その使命を放棄したものといわざるを得ない。
②本法は、内閣総理大臣の権限として、地方公共団体の長等に対して注視区域内の土地等利用者に関する情報の提供を求め、また、注視区域内の土地等利用者に対して当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができるものとしており、後者には違反者に対する刑罰の制裁も科せられている。不明確な要件のもとで、地方公共団体の長による調査・報告等がなされ、土地等利用者に報告義務や資料提供義務を課すことは、土地等利用者の思想・良心の自由(憲法第19条)、表現の自由(憲法第21条)、プライバシー権(憲法第13条)を侵害するおそれがあり、また、刑罰法規の明確性を欠く点において罪刑法定主義(憲法第31条)に反する疑いが強い。
③本法は、内閣総理大臣の権限として、注視区域内の土地等利用者が自らの土地等を重要施設等の「機能を阻害する行為」に供し又は供するおそれがあると認めるときに、刑罰の制裁の下、勧告及び命令により、当該土地等の利用を制限することができるものとしている。このような制限は、要件の不明確さから、注視区域内の土地等利用者の財産権(憲法第29条)を侵害するおそれがある。さらに、ここでも、②と同様、罪刑法定主義違反の疑いがある。
④以上のような規制の結果、例えば自衛隊や米軍の施設の周辺において、施設の拡充や施設利用の在り方について、注視区域内の土地等利用者が異議を表明したり抗議活動をしたりすることに対し、本法の不明確な要件のもとで利用制限や規制、刑罰を科せられることになりかねない。これは、注視区域内の土地等利用者の思想・良心の自由や表現の自由を大きく制約し、ひいては民主主義の基盤をも危うくするものである。
また、本法の成立過程で、十分な議論が尽くされたかについても強い疑念がある。
本法が審議された参議院内閣委員会では、6月14日、参考人として意見を述べた3人ともが法文の不明確性を指摘し、与党推薦の参考人も十分な議論を求めたが、ほどなく採決された。審議時間に関しても、衆参あわせて二十数時間という短時間の審議にとどまった。かかる状況では、十分な審議が尽くされたとは言い難い。
このように、本法は内容面でも手続面でも看過しがたい問題があることから、当会は、本法の強行可決に強く抗議し、本法の速やかな廃止を求めるとともに、恣意的な運用を阻止するために引き続き活動する決意である。
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