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最高裁判所大法廷決定を受けて、改めて選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入を求める会長声明

2021年07月05日

東京弁護士会 会長 矢吹 公敏

本年6月23日、最高裁判所大法廷は、夫婦同氏を強制する民法第750条は憲法第24条に違反するものではないとした2015年の最高裁大法廷判決を引用した上で、同判決の判断を変更すべきものとは認められないとした。
今回の最高裁決定が、現在の制度が憲法第24条に反するかの実質的な判断を放棄し、制度の変更を立法府の裁量に委ねたことは極めて遺憾であるが、違憲判断を下した三浦、宮崎、宇賀、草野4名の裁判官の意見及び反対意見には、以下のとおり、選択的夫婦別氏制度導入に向けての有益な意見が読み取れる。

①「生来の氏名に関する人格的利益」は憲法上保障されるべき個人の尊厳と両性の本質的平等に基づく権利であり、アイデンティティの喪失はその人格的利益を失わせるものである。憲法第24条第1項の婚姻は、国家が提供するサービスではなく、両当事者の終生的共同生活を目的とする結合として社会で自生的に成立し一定の方式を伴って社会的に認められた人間の営みである。夫婦同氏を婚姻成立の要件とし、二人のうち一人が重要な人格的利益を放棄することを強いる現在の婚姻制度は、憲法上正当化することはできない。
②現在の夫婦同氏制は、我が国が締結し、国会で批准され公布されている女子差別撤廃条約に反するものである。我が国は同条約に基づく女子差別撤廃委員会から条約上の措置をとる義務を履行するように3度の正式勧告を受けており、同条約の加盟国で夫婦同氏を義務付ける制度を採っている国は我が国のほかには見当たらない。
③男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することは、社会の緊要な課題であり、社会の制度や慣行を男女に中立的なものとすることが求められる(男女共同参画社会基本法前文、第4条参照)。
④夫婦同氏制の「定着」とは、それぞれの時代に、少なくない個人の痛みの上に成り立ってきたものであることに思いを致すべきである。

また、合憲の意見を述べた3名の裁判官も、補足意見の中で、長期間使用してきた氏を婚姻の際に改める者の中にはアイデンティティの喪失感を抱く者や社会生活上の不利益を被る者がいるという指摘があることを述べ、一般論として合理性に関わる事情の変化いかんによっては立法裁量の範囲を超えて憲法第24条に違反すると評価されることもあり得るものと述べている。

今回の最高裁決定では、このように7名の最高裁裁判官から厳しい意見が述べられていると理解すべきであり、これ以上の放置は許されない。国民の代表である議員で構成される国会がこれらを真摯に理解し、現在の夫婦同氏制を変えていく立法行動を採ることを東京弁護士会として強く促し、引き続き選択的夫婦別氏制度導入の実現に向けた不断の努力をする所存である。

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