核兵器禁止条約発効1年を機に、改めて核兵器の廃絶を求める会長声明
2022年03月07日
東京弁護士会 会長 矢吹 公敏
2022年2月24日未明にロシアがウクライナに軍事侵攻におよび、その後ロシアのプーチン大統領が核兵器を運用できる部隊に特別態勢を取ることを命じたと報じられている。
「核兵器禁止条約」は、2017年7月7日に国連会議で採択され、2020年10月24日、発効に必要な50番目の国としてホンジュラスが批准し、90日後の2021年1月22日に、ついに発効した。
本年1月22日、核兵器禁止条約の発効から1年が経過したが、この間、新たな加盟国が増加しつつある。また、核の保有国が加盟国に含まれる北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツとノルウェーが、本年3月に開かれる核兵器禁止条約締結国会議にオブザーバー参加する方針であると報じられており、核なき世界に向けた新たな動きとして注目されるべきである。
核兵器は、言うまでもなく、その使用によって、極めて多数の人々の生命を奪う恐れのある究極の非人道的兵器である。被爆者は、生命を奪われないとしても長期間にわたる放射線の後遺症に苦しむこととなる。もちろん、爆発とともに広範囲に飛散する放射性物質による環境汚染も深刻であり、これらの被害は核実験においても避けられない。
それゆえ、同条約は第1条において、核兵器その他の核爆発装置(以下、単に「核兵器」という。)の使用又は使用を背景とした威嚇のみならず、核兵器に関するあらゆる危険性を排除することを目指している(同条約第1条⒜号~⒢号)。
しかし、これまで核保有国は核兵器禁止条約に加盟しておらず、今後も早期の加盟を期待することは難しい見込みである。日本政府も、同条約が目指す核兵器廃絶という目標を共有するとしつつも、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要だという理由から、同条約に加盟しない意向を示している。さらに、上記のロシアの侵略行為をもとに、わが国が核戦力を利用できるようにするための議論の開始を求める声も出ている。
わが国は、唯一の戦争被爆国であり、「核兵器のない世界」に対する国民の希求は大きい。そして、日本国憲法は前文において「全世界の国民が、ひとしく...平和のうちに生存する権利を有することを確認する」(平和的生存権)ことを定めている。衆議院本会議は、2009年6月16日に、参議院本会議は同月17日に、わが国は、「唯一の被爆国」として、世界の核兵器廃絶に向けて先頭に立って行動する責務があり、核廃絶・核軍縮・核不拡散に向けた努力を一層強化すべきであるとする旨の決議をした。
日弁連は、2010年10月8日に「今こそ核兵器の廃絶を求める宣言」を発出し、当会も、2020年8月6日の「被爆75年目の夏を迎えるにあたっての会長談話」、2021年8月6日の「76回目のヒロシマ・ナガサキ平和祈念の日を迎えるにあたっての会長談話」において、唯一の戦争被爆国であるわが国が核廃絶へのリーダーシップを発揮することを求め、2021年3月24日の「核兵器禁止条約の発効にあたり、改めて核兵器の廃絶を求める会長声明」において、わが国が核兵器禁止条約に早期に加盟すべき必要性を指摘している。
当会は、わが国が唯一の戦争被爆国であることを踏まえ、ロシアによる特別態勢を非難する立場から、日本政府に対して、核兵器禁止条約への早期加盟を真摯に検討することを強く求めるとともに、改めて、核兵器のない平和な世界を実現するため、世界の市民とともに努力することを誓うものである。
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