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選挙演説の際の市民に対する警察権行使を違憲・違法と認めた札幌地裁判決についての会長声明

2022年04月25日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

2019年7月の参議院議員選挙期間中、札幌市内の街頭演説において、路上等から声を上げた市民らに対し、北海道警察の警察官らが、肩や腕などを掴んで移動させたり、長時間に亘って追従したりした事件(以下「本件事件」という。)について、2022年3月25日、札幌地裁(廣瀬孝裁判長)は、警察官らによる上記行為(以下「本件行為」という。)は違法であった旨判示し、市民らの国家賠償請求の一部を認容した(以下「本判決」という)。
本件事件について、当会は、2019年9月9日、「選挙演説の際の市民に対する警察権行使について是正を求める意見書」を発出し、公道で選挙演説を聴く者の言論・表現の自由と選挙演説の自由との調整の観点から、選挙演説の遂行に支障を来さない程度の発言等は許容されると解すべきであること、市民らの行為は選挙演説の遂行に支障を来すものではなく憲法第21条第1項により保障されるべきものであること、そうであるにも拘わらず市民らの行為に対して有形力を行使して妨害した本件行為は違法なものであったこと等を指摘し、本件行為のような警察活動が二度と繰り返されることがないよう求めたところである。
本判決は、上記意見書と概ね同様の立場から、市民らが街頭演説中に公道から「増税反対」などと声を上げた行為は表現の自由(憲法第21条第1項)を行使するものと明言し、警察官らの本件行為の違法性、違憲性を認め、市民らの表現の自由、移動・行動の自由、名誉権及びプライバシー権といった憲法上の自由・権利が侵害されたことを明確に認定した点で、大きな意義がある。
特に、本判決が、「主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともに、これらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としている」「憲法21条1項により保障される表現の自由は、立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利であり、とりわけ公共的・政治的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない」と判示し、本件事件における市民らの発言行為を「公共的・政治的事項に関する表現行為」と明確に位置づけ、「特に重要な憲法上の自由」である表現の自由として保障されるとしたことは、極めて重要であり、誠に正当な判断である。
当会は、市民らの「公共的・政治的事項に関する表現行為」に関する表現の自由の重要性等に鑑み、本件行為のような警察活動が二度と繰り返されることがないよう、改めて強く求める。

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