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国民審査の在外投票を認めない国民審査法を違憲とした最高裁大法廷判決についての会長声明

2022年05月31日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

2022年5月25日、最高裁大法廷は、最高裁裁判官の国民審査について定めた最高裁判所裁判官国民審査法(以下「国民審査法」という。)が在外国民の審査権を認める規定を欠いていることを違憲とする判決を言い渡した。長年に亘る立法府の怠慢が国民の権利を正当な理由なく奪い続けてきたことを厳しく指摘した画期的な判決である。
本判決は、憲法が最高裁に最終審としての違憲審査権を認めていることに言及した上、国民審査制度を、このような最高裁の地位と権能に鑑みて設けられたものであり、主権者である国民の権利として審査権を保障しているものと位置づけるとともに、国民主権の原理に基づいて憲法に明記された主権者の権能の一内容である審査権は、選挙権と同様の性質を有し、憲法は、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障していると明確に述べた。そして、国民の審査権またはその行使を制限することは原則として許されず、制限にはやむを得ないと認められる事由がなければならず、やむを得ない事由とは、そのような制限なしには国民審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められることを要するという厳格な判断枠組みを示し、本件ではそのような事由は認められないとした。
国民審査制度は最高裁に対する民主的コントロールの手段として重要な意味を持ち、国民による公務員の選定罷免権(憲法第15条第1項)の現れである。違憲審査権の行使により国家行為の合憲性をコントロールすべき最高裁裁判官の権能の重要性に鑑みれば、憲法が国民審査制度を設けている以上、憲法に「国民審査権」という文言自体はなくても、国民の審査権は憲法上の権利として平等に保障されているというべきである。本判決は、このような当然の事理を明快に論じ、これに反する国の主張を完全に退けた点で、極めて大きな意義を有する。
とりわけ、本判決が国民審査制度の趣旨として最高裁の違憲審査権に触れたことは、注目に値する。最高裁の違憲審査権は、日本の根本法である憲法をその違反や破壊から守る憲法保障・立憲主義の最重要手段である。最高裁が、いま、自身の違憲審査権の重要性に言及したことを、国は真摯に受け止め、まずは本判決が違憲と判断した点についての国民審査法の改正を急務とすべきである。
当会は、国民審査制度の意義の正しい解釈を示した本判決を高く評価するとともに、最高裁が、本判決で示した自身の違憲審査権の意義を見失うことなく、憲法保障及び立憲主義の観点から、憲法が与えた権限を今後も適切に行使することを期待するものである。

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