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入管法案の再提出に反対する会長声明

2023年01月17日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

各種報道によると、政府は1月23日召集の通常国会に、2021年に廃案となった入管法案(以下「旧法案」という)をその骨格を維持したまま再提出する方針であるといわれている。
旧法案及びそれに先立つ「収容・送還に関する専門部会」の提言や、2022年春のウクライナから逃れてきた人々の受け入れを契機とする旧法案の再提出の動きに対しては、当会の会長声明で繰り返し、その問題点を指摘してきたところである(2019年10月31日、2020年6月22日、同年12月21日、2021年3月8日、同年5月17日、2022年6月2日)。
今回、提出方針と報じられている法案(以下「再提出予定法案」という)では、難民認定申請により送還停止の対象とされるのは原則2回までとし、3回目以降の申請者は送還可能とする、という旧法案の重大な問題点が維持されている。これでは、難民認定率が諸外国に比べて格段に低い日本においては、迫害を受けるおそれのある地域に送還してはならないという「ノン・ルフールマンの原則」に反する結果を招来する危険が高い。日本の難民認定率の低さについては、昨年11月3日、国連自由権規約委員会も、日本に対する第7回政府報告書審査の総括所見において懸念を示し、国際基準に則った包括的な難民保護法制の導入を勧告した。送還停止効の制限は、難民保護に逆行するものであり、許されない。
また、再提出予定法案は、旧法案の「補完的保護対象者」制度が含まれているとも報じられているが、そもそも旧法案の「補完的保護対象者」は、難民条約上の「難民」の要件である迫害理由(人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見)には当てはまらないが、「迫害を受けるおそれ」のある者であり、従来の政府解釈によれば、この「迫害を受けるおそれ」とは、迫害を受ける人が迫害主体から個別的に把握されていることを要するとされる、きわめて限定的なものである。したがって、ウクライナなどの戦争地から逃れてきた者に「補完的保護対象者」制度が適用される保証はなく、政府の説明が市民の判断を誤導しかねないことは、2022年6月2日の会長声明で述べたとおりである。
そして、今回の再提出予定法案は、入管収容にあたっての司法審査や、収容期間の上限の導入に関する規定については、旧法案と同様、含まれていないと報じられている。入管収容の長期化を防止するには、収容期間の上限を設けることが最良であるにもかかわらず、これを見送ったことは、政府が長期収容を事実上許容していると受け取らざるを得ない。また、3か月毎に収容継続の必要性を判断し、「監理措置」に移行できるか検討する仕組みを設けるとも報じられているが、入管が自ら収容の必要性を判断するという仕組みでは、公平な判断がなされる保証があるとは言いがたい。前記の自由権規約委員会の総括所見においては、収容期間に上限を設けることや、裁判所の実効的な審査が受けられるようにすることが勧告されているが、今回の再提出予定法案は、こうした国際的な人権水準に沿ったものとはなっていない。
このように、提出方針と報じられている法案は、旧法案の重大な問題点を維持したまま、再提出されようとしているものであり、難民保護、入管収容制度のいずれにおいても、国際基準に沿ったものとはなっていない。今回の法案は、外国籍者に対する深刻な人権侵害を継続するばかりか、むしろ、新たな人権侵害を生み出しかねない危険を孕んでいる。
当会は、旧法案の骨格を維持したままの法案の再提出に反対し、国際的な人権水準に沿った抜本的な入管法改正をするよう強く求める。

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