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政府提出の入管法改定案の強行採決に反対し、廃案を求める会長声明

2023年06月08日

東京弁護士会 会長 松田 純一

本年3月7日に政府が提出した出入国管理及び難民認定法改定案(以下「政府法案」という。)は、衆議院の審議を経て、現在参議院において審議中であるが、採決強行の可能性も報じられている。
政府法案の問題点については、当会が、本年1月17日付および3月15日付会長声明にて指摘したとおりであるが、さらに、その後の国会審議の過程では、政府法案提出の前提となった事実の存否や政府答弁の正確性に、次々と疑念が生じる事態となっている。
政府法案の柱の一つは、難民申請中の強制送還を一部可能にすることにある。政府は、ある難民審査参与員の「難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができない」「分母である申請者の中に難民がほとんどいない」という説明を、難民申請者の送還が許される根拠の一つとしてきた。
ところが、参議院における審議開始後、この参与員が、年間1000件を超える不服申立てを勤務日数わずか30日あまりで処理していたことが明らかになった。また、迅速処理を目的として編成された参与員の「臨時班」が存在すること、参与員の間で審査件数の配分に著しい偏りがあることも新たに判明した。これを受けて、現役の参与員らが異例の記者会見を行い、政府の説明内容に対して強い疑問の声をあげたことは、現在の難民認定制度に重大な問題があり、難民として認定されるべき者が認定されていない可能性を改めて強く示唆するものである。
このほか、政府法案提出後の3月15日に言い渡された大阪地裁判決においても、難民認定制度の運用の問題点が浮き彫りになった。この判決では、LGBTを理由とする迫害を主張したウガンダ国籍女性に対する難民不認定の判断が誤りとされたが、この事案の難民認定手続においては、「申立人の主張に係る事実が真実であっても、何らの難民となる事由を包含していない」と難民認定基準において明らかに誤った評価がなされ、口頭意見陳述すら行わずに、書面審査のみで審査請求が棄却されていたことが明らかになった。
さらに、政府は、2021年3月に名古屋入管で起きたスリランカ国籍女性の死亡事件を受けて、入管における医療体制を改善し、「主な収容施設において常勤医を確保した」と強調していた。ところが、昨年7月に新たに確保したという大阪入管の常勤医が、今年1月に酒酔い状態で勤務し、それ以降は医療業務を行っていないことが、参議院での審議段階に至って発覚した。2021年に政府提出の入管法改定案の成立を見送った理由の一つは、入管収容中の医療問題であったが、これに対する改善策について政府が重大な事実を隠蔽して国会答弁を続けていたことは、立法府を実質的に欺くものといわざるを得ない。
このように、政府法案提出の前提が次々と覆されている以上、政府法案をこのまま成立させることは断じて許されない。もし、政府法案が可決されれば、難民として認定されるべき者が送還され、長期収容下での人権侵害が繰り返されてしまうことは必至である。よって、政府法案を直ちに廃案とし、今回の審議で明らかになった全ての問題点について議論を尽くした上で、国際的な人権水準に沿った法改正をするよう強く求める。

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