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トランスジェンダー当事者(MtF)に関する行政措置要求判定取消等請求訴訟の最高裁判決を受け、国に対し、同判決の趣旨に沿った対応をするよう求める会長声明

2023年07月18日

東京弁護士会 会長 松田 純一

本年7月11日、最高裁判所は、トランスジェンダー当事者(MtF*)である経済産業省職員が、自身の性自認に沿った取扱いについての行政措置要求を否定した人事院判定の取消等を求めた訴訟において、争点となった職場での女性用トイレの使用制限の可否に関して、当該職員からの職場の女性用トイレを自由に使用することの要求を認めないとした人事院の判定を違法と判断する判決を言い渡した。
最高裁判所は、判決において、当該職員が女性の服装等で勤務し、女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはないことなどから、当該職員が職場の女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定しがたく、人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、当該職員の不利益を不当に軽視するものであって、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない旨判示している。

この判決は、一つの事案について判断したものではある。しかし、抽象的なトラブルの恐れなどを理由としてトランスジェンダーに対して異なった取扱いをすることは許されず、具体的な事情を踏まえて対応すべきことを示したものと評価することができる。
そもそも、人がその性自認に沿った取扱いを求める権利は、人の人格の核心にかかわるものとして、憲法第13条によって保障されていると考えられるところ、これが多数派の意見・感覚等により、正当な理由なく制約されてはならないのは当然のことであり、様々な場面において、この最高裁判所判決の趣旨に沿った対応が要請されるものといえる。

当会は、国に対して、トランスジェンダーの権利利益を正当な理由なく制約することのないよう、本事案はもとより、同種事案について、最高裁判所判決の趣旨に沿った、具体的な事情を踏まえた対応をするよう求める。
また、本年6月に施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」は、国に基本計画の策定及び運用に必要な指針の策定を課しているところ、それらの策定に際しても、各場面でその具体的な事情を踏まえた対応がなされこととなるよう、留意することを求める。

当会は、引き続き、トランスジェンダーを含むセクシュアル・マイノリティの問題への取組みをはじめ、人々が個人として尊重される社会の実現を目指して活動してゆく所存である。


*MtF......Male to Femaleの略。出生時割り当てられた性別が男性で、性自認が女性である人のこと。トランスジェンダー女性。

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